トランプが「拉致解決」を本気で進めている理由 対日貿易交渉はもちろん対北も切り札となる

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金正恩委員長は、中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領の2人に対して、立て続けに、平壌来訪の招待をしている。しかし、それがいつになったら実現するのか、あるいはしないのか、定かではない、とメディアが伝えている。

安倍首相が、平壌を来訪すれば、金正恩委員長の面目も立ち、中身のある日朝首脳による平壌会談の開催は、外交的にも、自然である。

そのときこそ、金正恩氏は安倍首相に対して、「拉致被害者全員の日本への帰国」というカードを示すかもしれない。もし、そうなれば安倍首相の国内人気は、申し分なく高まる。

金正恩氏が個人的に、安倍首相の人気が高まることを望むとは考えにくいが、「拉致被害者全員の日本への帰国」ということになれば、本当に日本人が感謝をすべき相手は、トランプ大統領だからである。金正恩委員長と友人関係にあるのはトランプ大統領であり、そのトランプ大統領は、シンガポール会談とハノイ会談で、金正恩委員長に対して、何度も何度も、拉致問題完全解決に圧力をかけ続けてきた。

そのことを、日本国民は決して忘れない。昨年6月6日配信の『トランプは拉致問題の完全解決を狙っている』で指摘したとおり、拉致問題が解決すれば、日本は国を挙げてトランプ大統領の貢献を理解するに違いない。

天才ネゴシエーターとしての本領が発揮される

そのトランプ大統領は、国賓として、5月25日から異例の3泊4日、日本に滞在し、大変な「おもてなし」を受けた。このイベントの後に何が起こるのか。

そこで、「ディールの天才」であるトランプ大統領の本領が発揮される。いま日米間における最大の懸案事項の1つは、何と言っても、日本の農業市場の対米開放である。受けて立つ安部首相はどう対応すべきなのか。

安倍首相は、農業団体に政治的基盤を長年持つ自民党からの首相としては珍しく、近年、「農協改革」という大ナタをふるった実績がある。「農協改革」と比べれば、農業市場の対米開放は、日本国内での政治的困難度が低い。

また、安倍首相は、ワイン、チーズの輸入増加を含めて、EUとの間で、世界最大の貿易圏を確立してきている。EUが対日農業輸出によって潤っているのは、広く国際的に報じられてきている事実である。

総合的にみると、トランプ大統領の日本に対する最大の貢献が拉致問題の全面解決にあるとすれば、今後、日本の農業市場の対米開放が一気に加速しても不思議はない。

拉致問題全面解決というカードを金正恩氏が切れば、日本の金正恩氏に対する評価は高まり、トランプ大統領に対しても、友情の証になりうる。金正恩氏にとって、拉致問題の全面解決は、国内的に政治リスクはゼロだと言っていい。金正恩氏はここに気づいているだろうか。

トランプ大統領は、今後とも拉致問題で安倍首相との連携を深めるだろう。トランプ大統領は、拉致問題を含む、政治、経済、外交など重要なテーマで、天才ネゴシエーターとしての本領を発揮していくことになる。その多角的なネゴシエーションが見物である。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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