この北朝鮮による2回目の発射実験直後に、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、電光石火の素早さで、マイク・ポンペオ国務長官をロシアに派遣した。5月14日、ポンペオ国務長官は、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮問題を議題に、直接会談した。
ロシアのソチでの会談の際、北朝鮮の「核の横流し」問題について、ポンペオ国務長官は、「核が浮遊するという可能性は、ロシアにとっても重大関心事である」と、記者団に語っている。
そのポンペオ氏は、対イラン戦争を引き起こそうとする「危険」な政治家と評されているジョン・ボルトン大統領補佐官とは違う。むしろ、ボルトン氏の抑え役に回っている。ところが、北朝鮮は、ハノイ会談の決裂を受けて、ボルトン氏への批判のみならず、「ポンペオ氏を交渉担当から外せ」とまで言い切った。これは明らかに北朝鮮の計算ミスだ。
そのことを熟知しているトランプ大統領は、ホワイトハウスの記者団に、「北朝鮮は、まだ交渉の準備ができていない」と述べた。一方、金正恩氏のほうは、韓国の文大統領を「外交指南役」として、選んでしまったミスに、やっと気づき始めているところではないだろうか。
当面、金正恩氏にとって重要なのは、「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領との友人関係を実務面で復活することであろう。その際に有効な「次の一手」があることに、はたして気づいているだろうか。
もちろん、「核の全面放棄」が正解と言えるカードであることに変わりないが、「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領のハートに飛び込む、もう1つのカードの存在を、金正恩氏は気づいていないのではないか。それは韓国の文在寅氏も同じだろう。
「拉致被害者全員の日本への帰国」という切り札
そのカードこそ、「拉致被害者全員の日本への帰国」という切り札である。それが、なぜ、トランプ大統領と金正恩委員長の「実務」面での友情の復活のカードとなりえるのか。その答えを明らかにする前に、日本の対応について、俯瞰しておきたい。
まず、日本の北朝鮮に対する、過去から現在に至る、安倍晋三首相の立場について概観しておこう。それは、「圧力と対話路線」を行くトランプ大統領よりも、「圧力に継ぐ圧力」のボルトン補佐官の路線に近い。
これまで、安倍首相は祖父の岸信介元首相の当時から、パパ・ブッシュ元大統領はじめ、ブッシュ家の人たちと親しかった。安倍氏自身のスタッフたちは、人脈的、政策的には、ブッシュ・ジュニア元大統領政権に属していたボルトン氏と近く、当然のことながら、北朝鮮への圧力路線に集中してきた。
その結果として、金正恩委員長は、アメリカのトランプ大統領はじめ、隣国韓国の文大統領、中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領と首脳会談をしてきたが、かつてボルトン氏がかかわった、ブッシュ政権時代の6カ国協議の当事国の中で、日本の安倍首相とだけは、いまだに首脳会談をしていない。
安倍首相は、2002年、官房副長官時代に平壌で、金正恩委員長の父君の金正日総書記に会っている。今回、安倍氏が、首相として平壌を再訪問したとしても、何の不思議もない。ごく自然である。
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