日本の株価が米中貿易戦争で下がると読む理由 楽観的な「早期妥結期待」はかなり危うい
実際、アメリカのISM指数やドイツのIFO指数など、企業の景況感を測るデータは、着実に悪化傾向を強めている。前回のコラムでも指摘したように、足元の市場では「中国経済だけが悪いのであり、中国が経済対策を打つなどして同国の景気が持ち直せば、後は問題ない」という楽観論が聞こえる。ところが、中国のみならず世界の企業の業況感が悪化し、世界中の設備投資や建設投資が減退すれば、そうした楽観論は根拠を失って崩壊するだろう。
投資の減退は、特に日本経済と日本の株価に打撃に
過去の経済成長と投資の関係をIMF(国際通貨基金)のデータでみると、2009年は、リーマンショックの影響で、世界全体の実質経済成長率も、名目の投資額(設備投資、建設投資など)の前年比の伸びも、共に大幅なマイナスだった。特に注目されるのは2016年で、この年は世界の経済成長率はプラスだったが、投資額の伸びはマイナスとなっている。
この年は、年初から中国経済に対する疑念が生じて株価が世界的に下落したうえ、6月には前述の英国の国民投票があり、欧州経済の先行きが心配された。このため、結果としては世界経済はマイナス成長に陥らなかったものの、企業が懸念を強め、投資を大いに抑制したことがうかがえる。
2019年については、今のところIMFは「世界の投資額はわずか0.3%だが、増加する」と予想している。しかし述べてきたような、ブレグジットや米中通商交渉の不透明感が引き続き消えないならば、企業行動の委縮が進み、投資が一転減少する展開になることが予想できるはずだ。当面は市場が国際政治の不透明感を軽視し、達観したかのような安定した相場付きをみせても、最終的には投資を中心とした実体経済の悪化にひきずられて、内外の株価が大底を「抜けたらどんどこしょ」となるだろう。
実は、こうした世界的な投資の減退で、最も打撃を受けるのは、日本経済であり、日本の株価だろう。2018年の年間の日本からの輸出額をみると、最もウエイトが高いのは自動車・自動車部品を中心とする輸送用機器で、23.2%を占める。それだけでなく、一般機械(20.3%)、電気機器(17.4%)のウエイトも高い。以前は電気機器でも家電などの家計向けも多かったが、今は機械・電機のなかでは、工作機械、プレス機械、半導体製造装置、産業用ロボット、建設機械や、それらを支える機械部品、電子部品といった、企業の設備投資・建設投資関連が主力だ。
たとえ世界経済の減退が緩やかにとどまったとしても、2016年のように世界の企業が大きく投資を減らし、それが日本からの輸出に大きな打撃を与えて、日本経済を下振れさせるとともに、日本株でも投資関連企業中心に株価が下落すると懸念される。
「それならば」ということで、足元では内需株の物色が進んでいる。だが、個人消費中心に楽観できる環境ではない。消費者心理を示す消費者態度指数は、4月まで悪化傾向が続いており、31日(金)に公表される5月分のデータが懸念を持って注目される。一方日本政府は、24日(金)に公表された月例経済報告でも、若干の下方修正は行ないながら、経済全体が「回復」しているとの判断は変えておらず、このまま消費増税に突入する構えだ。
日本株を物色するうえで、投資関連中心に外需株が買えず、さりとて消費関連中心に内需株も買えない、という事態に陥れば、当然株式市況全体の方向性は明らかだろう。
そうしたなか、今週の日経平均株価としては、まだしばらくは安定ないし膠着状況が続くかもしれない。ただそれは、これからやってくる下落局面の前の、小休止に過ぎまい。今週の予想は、2万0700~2万1300円とする。
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