アメリカで「中絶禁止法」が次々成立する事情 8州で中絶の権利に意義を唱える州法が成立

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アメリカでは人工中絶を制限する州法が次々と成立する一方で、中絶の権利を守ろうとする動きも強まっている(写真:Chris Aluka Berry/ロイター)

アメリカでは今年、いくつもの州が相次いで人工妊娠中絶を制限する州法を成立させている。アラバマ州ではほぼ全面的に中絶を禁止し、オハイオ州では胎児の心拍が確認できた時点以降の中絶を禁止、ユタ州では妊娠18週目以降は禁止とした。

すでに8つの州が、連邦法で守られている中絶の権利に異議を唱える州法を成立させている。さらに多くの州がこれに続くと見られており、右派は歓喜の声を上げ、左派は恐怖に駆られている。

目的は「最高裁判決」を覆すこと

これらの法律の成立は、統一的な政治運動の成果のように見えるかもしれない。しかし実際は、別々の活動家が運動を続けてきた結果であり、各州の活動家には何十年もかけて磨き上げてきた独自の戦略がある。

ミズーリ州で中絶禁止法案のロビイストとして長年活動しているサミュエル・リーは言う。「例えば『この州ではこうしなさい、あの州ではああしなさい』と指示するような、全体計画を立てる人がいるわけではない。各州にそれぞれクリエーティブな人がいて、それぞれに違う方法をとっている」。

反中絶運動は50年近くかけて築かれてきており、その長年の夢は、全米での中絶合法化を決めた「ロー対ウェード裁判」の最高裁判決を覆すことだ。反中絶派はその夢にいま最も近づきつつある。

反中絶派の主張を後押しする大統領の存在や、いまの最高裁が保守派優勢であることを背景に、そして断固たる決意によって、反中絶の活動家や議員らは、ここ数カ月の間に国中でいくつもの法律を成立させた。

アラバマ州の最も厳しい中絶禁止法は、成立はしたがまだ施行はされておらず(法律が最高裁の判決にそぐわないため)、裁判が行われることが予想されている。反中絶派の中には、まさにその裁判自体を望んでいる人たちもいる。

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