バイトから5年で専務に昇進した女性の生き様 いじめ経験が社会に出て役立った

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例えばチューリップが1本欲しいというお客様のために、30本や50本と大量に仕入れなければいけない。その多くが廃棄になる可能性がある。

「でも配達専門の花屋にすれば、数パターンの花束を作っておいて完成品を売れば、新鮮なお花を無駄なく同じ花束で提供できる。こんな効率のいい話はないでしょ?」

しかし客を「待つ」スタイルをやめるからには、法人向けにも積極的に花を売らなければならない。野口さんは自ら「花屋の営業マン」になろうと、とにかく飛び込み営業をした。

道を歩いていてレストランやエステサロンなどがあるとすかさず「この受付にお花置きませんか?」と入っていく。もちろん、たいていは門前払いだった。

しかし、いじめと接客で鍛えられた心は簡単には折れない。何千軒と飛び込み営業に行くうちに「花って高いね」「どういうときにお花を使えばいいの?」など同じような質問が多いことに気づく。花を必要とするシチュエーションがわからないのだ。

「私たち花屋は、つねに新しい商品、新しいデザインを創造しないといけないと思い込んでるんです。でも一般のお客様はもっと根本的なところにいて、お花の使い方がわからない。だから、私たちが戦う場所はそこじゃないはずなんです」

業界にいると、よくも悪くもその世界の常識が頭に染みついてくるものだ。見慣れたものには価値を感じなくなっていく。しかし花を売る相手は“素人”なのだ。長く主婦をしていた野口さんは、自分が花に詳しくなる必要はない、お客様に近い感覚を持っているのが私だから、“プロの素人”になろうと決めたという。

他店を研究しアイデアをひねる

お母様の誕生日、彼女と付き合った1周年記念、金婚式、お仏壇……野口さんは花を贈る“用途”をどんどん開拓していった。その営業トークはお手のものだ。

「ご命日は大切。でも故人を偲ぶならお誕生日も喜んでくれるかも! とか、どんどんお花を買う理由を作っていったの。お墓が遠くてお参りに行けない人には、買ってくれたお花を代わりに挿しておきますよというサービスを始めたりね」

当時テレビショッピングの制作をしていた男性は、番組に野口さんが出演した際のことを振り返る。

「たいていの人は、自分の作った商品を“こんなにいいものを作ったんです”とアピールします。でも野口さんは、お客さんのためを思って、どうしたら楽しんでもらえるか、お客さんが何に悩んでいるかを考えるんです。

今まで“花は買ってきて枯れるまでの数日を楽しむ”ものだった。しかし生花を特殊加工して作るプリザーブドフラワーは、年単位で美しく保てる。それを仏花として売りたいと言うんです」

花は飾りたいし、先祖も供養したいが世話が面倒だという人は多いだろう。野口さんは番組で「枯れない仏花」をアピールした。仏壇に1年中生花を飾るのは管理が大変だが、プリザーブドフラワーならメンテナンスがいらず、かつご先祖への供養の気持ちも表せる。お彼岸のときには今までどおり生花を飾れば、これまでよりもずっと供養になるというのだ。これが野口さんの言う「花の用途売り」だ。

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