煮詰まったときは「立ち去る」
――たとえば打ち合わせや会議などで煮詰まったとき、山内さんはどう振る舞っていますか?
一回やめて、その場を立ち去る(笑)。それはよくやりますね。何も言わずに消えて、またふらっと帰ってきたりしています。
――『トリック』を通じて山内さんが変わったことはありますか?
当初の堤幸彦さんといえば、「金田一少年の事件簿」や「ケイゾク」などを手掛けていた頃で、第一線のテレビマンでした。テレビドラマを監督で見ることがなかったような時代に、内容にかかわらず、堤さんが演出を手掛けているから見るという人が出てきた頃です。
その当時、私はすでに7~8年ほどドラマをやっていましたが、『トリック』は、自分が面白いと思ったことを面白いと言って表現していいんだと思わせてくれたドラマでした。ただ、仕事という枠を越えて、それが喜びになったのは初めての経験でした。自分が面白いと思ったこと、全勢力を注いでやったことを評価してもらえる喜び。仕事は楽しんでやっていいんだということを知ることができた作品でした。今でも自分の中の座標軸になっています。自分の中でも「『トリック』だったらどうするか」というのはありますね。
――それは一般のサラリーマンでも役に立ちますかね?
それはないと思いますけどね(笑)。でも仕事を楽しんでやるというのは大事じゃないですかね。
――山内さんは東宝の映画企画部長として企画をチョイスする立場にあると思うのですが、企画を見極める決め手はありますか?
今は、自分の企画だけでなく、大勢のプロデューサーの企画を進める立場にあるので、自分が面白いと思うだけでは決められないですね。要はバリエーションだと思うのです。毎日、中華を食べていても飽きるじゃないですか。毎回イタリアンでも和食でも困るわけです。つまり東宝の作品が全部『トリック』になってしまっては困るわけです(笑)。やはり品ぞろえのバリエーションは企画として意識しているところですね。どうしても流行や当たりなどを意識してしまうと、プロデューサーの探そうとする企画もみんな同じ方向に向いてしまう。みんなが一方向を向いているときに、反対に向かう人がいないと、なかなか企画も成立しないところはありますね。
――それこそ『告白』『悪人』の川村元気さんや『あなたへ』の佐藤善宏さん、『悪の教典』の臼井央さんなど、東宝では若い世代のプロデューサーが育ってきていると思うのですが。
ありがたいことに、みんなが得意分野を持って企画制作をやってくれています。プロデューサーというのは十人十色で、なるべくそれぞれの持ち味を生かしながら、品ぞろえと言いますか、企画のバリエーションをそろえるのが僕のやるべきことと思っています。
――そういう意味で、東宝にとっての『トリック』の立ち位置はどのようなものなのでしょうか? ある意味、とんがった企画だとも言えますが、定番として期待されている作品でもあると思うのですが。
『トリック』はそこが味じゃないかと思うのです。どこか伝統芸能的なにおいがありますからね。
――それこそ今回の劇場版にはダチョウ倶楽部も登場しますしね。
そういった小ネタもそうですし、底に流れているドラマというのも、割と定番なことをやっていますしね。とんがっているように見えますが、実は王道ドラマなんです。
――オープニングの流れも定番の流れとなっています。最初に山田がマジックを披露するも失敗。家に帰るも家賃を取り立てにくる大家さんから逃げる。そこに上田がやってきて、カネになる仕事の話を持ちかける……。毎回「お約束」を踏まえつつ、いかに外していくかという過程を楽しむというドラマは、ある意味『男はつらいよ』的な楽しみ方だと思うのですが。
まさに『男はつらいよ』なのです。もちろん頭からそれを意識してきたわけではないですが、長くやっていくうちにそうなってきました。結局は「はぐれ者の2人がふらりとやってきて事件を解決する」という物語なんですよ。
――それはまさに西部劇のフォーマットですね。
そういう意味では意外と基本は踏み外していないですね。それが『トリック』の持ち味だと思うのです。
(撮影:梅谷 秀司)
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