資本主義と闘った経済学者「宇沢弘文」の生き様 身命を賭して伝えようとしたLiberalismとは

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それは価格均衡のメカニズムを分析する主流派経済学とは根本的に異なり、市民の基本的権利を充足するための社会的共通資本をどう運営、管理すべきなのかを探る研究です。

ポイントは、市場経済が自然環境や人為的な制度という「非市場」の土台の上で初めて成り立つということを、理論的に示したことです。しかも、社会的共通資本の理論に用いられるのは、限界分析や均衡理論です。

つまり、厳しく批判してきた主流派経済学の枠組みの中でそれを明示したのです。主流派経済学という制度に働きかけ改めるためには内在的な批判でなければならない、という認識が宇沢にはありました。

宇沢を「アメリカ時代の数理経済学者」と「帰国後の啓蒙家」に分けて評する人がいますが、このような評価の仕方は誤っている。実際、彼の思想は一貫していました。それを理解することなしに、宇沢経済学の全体像を捉えることはできないと思います。

自由主義とLiberalismは違う

──最終章のタイトル「未完の思想 Liberalism(リベラリズム)」に込めた思いは。

宇沢は社会的共通資本の経済学は「Liberalism」の理念に基づいているとしばしば口にする一方、日本にはLiberalismに直接対応する言葉がないと説明していました。

『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(佐々木実 著/講談社/2700円+税/642ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

個人の自由をうたう自由主義は市場経済の成立を支えた思想ですが、世界恐慌に見舞われた1930年代、ファシズムや共産主義が台頭してくる中、個人の自由に重きを置くだけの自由主義思想は埋没してしまいました。

政府の役割を重視するケインズの経済学も、こうした自由主義の危機への対応策だったといえるでしょう。

──自由主義とLiberalismは違うのですね。

ある意味、本書は宇沢が生み出すまで誰も気がつかなかった、Liberalismという独自の思想の誕生の経緯を追った物語であるといえます。

宇沢の数理経済学はとても難解ですが、数学になじみが薄い読者にも理解できるよう心がけて書いたつもりです。宇沢弘文が身命を賭して表現しようとしたLiberalismを、1人でも多くの人に知ってもらいたいという気持ちがあったからです。

風間 直樹 『週刊東洋経済』編集長

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

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