浮かれた株式相場が払うことになる巨額のツケ ますます行きすぎる楽観、現実は一段と悪化

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日本でも、アメリカの株価ほどの上値追いは見せていないが、日経平均株価は2万2000円台で底固い推移を続けている。しかし実体経済をみると、前回のコラムで指摘したように、国内経済の動向を示す3月の消費者信頼感指数や景気ウォッチャー指数は不振であった。

その後公表された日本の経済統計をみても、特に4月17日に発表された3月の輸出額については、総額が前年比2.4%減だったが、特に中国向けは9.4%もの落ち込みを示している。日本以外で3月の貿易統計を既に発表した国は少ないが、シンガポールからの輸出統計でも、3月の中国向けの輸出額は8.7%減だ。内外株式市場では、3月の中国の経済統計が持ち直したため、中国経済は景気対策の効果が表れて回復に向かっているとの楽観が広がったが、そうした見解は怪しいのではないだろうか。

さらに、4月26日に公表された3月の鉱工業生産は、2月の前月比0.7%増から反落し、0.1%ほどの減少になる、という事前予想だったが、実際にはより大幅な0.9%減となった(前年比では4.6%減)。この鉱工業生産は、景気全般の動向を示す、景気一致指数の計算に用いられる。同指数は昨年10月から悪化の様相が強まっているため、慎重なエコノミストの間では、既に日本経済は昨年秋から景気後退期に突入しているとの説が囁かれている。3月の鉱工業生産の悪化により、景気一致指数はさらに下振れをする可能性が強まったと言える。

こうした経済環境の悪化もあり、アナリストは企業収益見通しの下方修正を続けており、どこまで予想値が下がっていくのか、メドが立ちにくい。このため、予想PER(株価収益率)で株価水準の割安さを議論することができない(予想PERが役に立たない)。足元では3月本決算企業の決算発表が始まっているが、内容が悪いものが既に多く目に付くようになっている。

筆者は、当初は日本経済について、10月からの消費増税以外に特に悪材料はなく、年後半にアメリカ経済が後退期入りすることで、足を引っ張られて悪化するだけだろう、と予想していた。ところが筆者のそうした見通しは、余りにも楽観的過ぎたようだ。アメリカの経済が(これから悪くなるが)まだ悪くなっていないにもかかわらず、日本経済が独立独歩でどんどん悪化している。日本の株価見通しについては、年央辺りに日経平均が1万6000円に下落する、という予想値を下方修正する必要はない、と考えているが、そのような見通しで大丈夫かどうかは、今後も景気実態を点検しながら考えていきたい。

連休中に「海外勢の仕掛け売り」はあるか

さて、日本は長い連休に突入した。読者の方々は、多くが楽しく長期連休をお過ごしになっていることと思う。筆者は365日営業の零細自営業者なので、連休滑り出しの週末も、セミナー講演のため、大阪に出張していた。交通機関は、やはり家族連れなどで大変混雑しており、連休中の支出拡大が期待される。

しかし、昨年もそうだったが、連休中に財布の中身が軽くなってしまい、その反動の節約ムードが、連休明けにかなり強まるのではないだろうか。消費者心理の悪化を踏まえると、昨年以上に5月中旬以降の個人消費が落ち込むと懸念される。

さらに連休中に海外の株価や為替相場がぶれるのではないか、との声も聞かれる。ただ、向こう1週間程度は、とりわけ海外で悪材料が控えているわけでもないし、よく唱えられる「海外投機筋の仕掛け」説についても、別に仕掛け的な売買が膨らむと決まっているわけでもない。したがって、連休明けの日本の株式市況が、ギャップアップやギャップダウン(前営業日の終値からかけ離れた水準から次の市況が始まること)するとは限らない。

ただし為替については、先週の日米財務相会談では、アメリカ側が何らかの為替に関する協定を盛り込みたい一方、日本側はそれを避けたい、という温度差が目立つ結果となった。日米首脳会談では特に強硬な要請はなかった模様だが、ドナルド・トランプ大統領は何らかの成果を急ぐような姿勢を示したとの報道もあり、米ドル安・円高の思惑が(連休中とは限らないが)広がる恐れはある。

では、読者の皆様、引き続きよいお休みを。筆者は当コラムの執筆も含め多くの仕事があるが、本当にありがたいことだ。皆様のご愛読に、心より感謝申し上げたい。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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