ドコモの「値下げ」はなぜ実感を持てないのか 5期ぶり減益でも、値下げ幅小さく見える逆説

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値下げによる年間4000億円の還元額をドコモの携帯の推定契約者数の6000万人で割ると、1人当たり年間6666円、月額555円になる。ドコモの2019年3月期の平均通信料単価は月額4340円なので、値下げ幅は1割強。キャリア各社の儲けすぎ批判が強まっている中で、1割強では値下げの「実感」を持てないユーザーはいるかもしれない。

キャリア各社はこれまで、通信料金を大幅に引き下げるよりも、MNP(他社からの乗り換え)の勧誘や、流出の引き留め、通信契約に紐づいた端末購入補助にたっぷりと費用をかけてきた。こちらに対しては、年間数万円レベルの還元も珍しくはない。

しかし、このやり方だと、頻繁にMNPをしたり端末を買い替えたりする利用者の恩恵が大きい一方で、同じキャリアや端末を使い続けるユーザーとの間で大きな不公平が生じる。そのため、ユーザーからは「端末値引きよりも通信料金自体を安くするべきだ」という指摘がたびたび出ていた。ただ、キャリアが通信料金の値下げにあまり積極的ではないのには理由がある。

ドコモの通信契約者数は上向く?

前述のように、ユーザー1人あたり月額数百円の値下げで、ドコモはこれだけの減益になるが、携帯電話各社の解約率はいずれも1%を大きく下回っている。ドコモの2019年3月期の解約率は0.57%だった。大半のユーザーがMNPをせずに同一キャリアにとどまっている現状の中で、わざわざそうしたユーザーも含む数千万人に広く浅く還元するより、ピンポイントでMNP客の獲得を狙って狭く濃く還元する方が、コスト効率が良いのは事実だ。

もちろん、ドコモの今回の値下げを好意的に受け止めるユーザーも少なからずいるはずだ。吉澤社長は今期のドコモブランドの通信契約者数の見通しについて、「上向きになる。料金値下げの影響は当然いい方向に行く。ポートアウト(流出)がされにくくなるし、ポートイン(獲得)も当然取っていきたい」との考えを示した。

ただし、新料金プラン発表後のさまざまな反応を気にしてか、4月26日の決算会見でも、新料金プランについての説明に相応の時間を割いた。特に、新料金プランのメインとなる「家族割」の対象者に値下げのメリットが十分に浸透していないとして、「これからPRしていかないといけない」と話した。

ドコモは、減益になるほど身を切る値下げ策の見返りとして、果たして狙い通りに充分な顧客基盤の拡大につなげられるのか。この後出てくる他社の今後の対抗値下げの影響も含めて、これからが重要な局面になりそうだ。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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