日本人が知らない「アボカド」生産農家の悲哀 アメリカでアボカド価格急騰のワケ

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毎年、世界的に需要が高まっているメキシコのアボカドであるが、その生産業者はまた別の戦いを強いられている。麻薬組織カルテルとの戦いだ。アボカドがビジネスになっているのを見たカルテルは、生産業者に対してその土地代や収穫に対して手数料を要求するようになっているという。

彼らの要求に従わないと、殺害されたり、家族が誘拐されたりすることを覚悟しておかねばならない。あるいは、アボカドの木がすべて焼き尽くされるというケースもあるようだ。

その状況を理解していたフェリペ・カルデロン大統領(2006~2012年)の政権時には、ミチョアカン州に4200人の軍隊と1000人の連邦警察を派遣して農家を保護し、カルテルによる脅迫も解消させた。

カルテルからの脅迫を受けながら生産

しかし、それは一時的には効果があったが、最近またカルテルが農家に姿を現して脅迫するようになっている。これに対して農家側も自衛組織をつくってカルテルの脅しに屈服しないようにしたり、また用心棒を雇ったりして防衛に努めている。

ただ、これにも費用がかかるため、カルテルに手数料などを払ったほうがいいと考えて、それを実行している農家もあるという。また、カルテル同士の縄張り争いもある。カルテルの1つ、テンプラリオスは土地代と手数料とで年間1億ドル(110億円)を稼いでいたという。

アボカド生産業者のカルテルとの戦いはアボカドを毎日おいしく食べている消費者には知る由もない。しかし、特にミチョアカン州のアボカドの生産業者はカルテルからの脅迫を受けながら生産に励んでいるのだ。こうした中、トランプ大統領による「国境封鎖」という脅しというストレスが加わっている。今後も、中米からの集団移民の動きが続く限りトランプ大統領のメキシコとの国境を封鎖するという脅しが続く可能性は高い。

もっとも、実際国境が封鎖された場合、アメリカとメキシコの商取引の70%は陸上での移動であることから、両国とも多額の損害を被るようになるのは明白である。カリフォルニア州だけでも56万人の雇用が影響を受けることになるそうだ。

トランプ大統領はそれを承知しているはずだと思われるが、同大統領は自らの発言が及ぼすマイナス影響を事前に考慮して発言するということができないのだろう。今後もアボカドの価格の一時的な急騰は繰り返されるのではないだろうか。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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