父兄から虐待受けた彼女が「40年後に得た希望」

被害者を縛りつける「記憶」と「その後の人生」

そういった複雑な心の動きは、誰でも理解できるわけではない。被害者同士でも共有できないことがある。

他の自助グループに参加してみたあと、新たな自助グループを起ち上げた。定期的に会を開き、経験を語り合う場としている。治療の場ではないけれど、「私が悪かったのではないか」といった自問に苦しんでいた当事者たちの救いになることもある。

「私は恵まれている。何度も周りの人から救いの手を差し伸べられ、チャンスを与えられてきた。それを掴み取る力も環境もあった。これからは、私もそちら側になりたい。だから、これからは自分たちが主体となって語りたい」

それが今のけいこさんの思いだ。

「生きていること」が希望

店を営むかたわら、被害当事者として活動を続ける中で、最近うれしいことがあった。知り合った児童相談所の職員が、店に来てくれたのだ。

「『こうして料理を運んでいるけいこさんを見られたことが、僕たちにとってはすごく希望です』って言ってくれたんです。性虐待に遭った子どもが、こうして生きることもできる。その証明になるって。それがすごくうれしかった。いろんなことがあったけれど、こうやって生きているってことだけで、十分発信していると思う」

専門的な診療を受け始めてから、今年で12年。この連載のタイトルは「サバイバーの明日」だが、けいこさんは「私はサバイバーではなく、スライバーになりたい」と言う。サバイバー(survivor)は「性暴力から生き延びた人」だが、スライバー(thriver)は「サバイバーであることを主張する必要のなくなった人」(※支援グループThriveの公式サイトより)を指す。

「最近は、スライバーとも言いたくない気持ちが芽生えてきた。ただの人、それがいい。あれは私の歴史のひとつだったみたいな感じ。おばあちゃんになって、誰かが訪ねて来て、『ああ、そういえば私も昔そういうことがあったよ』って……そういう風になったらいいと思う」

ああいうことがあったけど乗り越えたではなくて、自分の人生をまるごと受け入れて生きる。私の場合はそうです。私は図太く強く、生きています――。けいこさんは確かめるようにそう言った。

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