日立が「武蔵野の森」に開いた研究施設の正体 同社最大の中央研究所に新設する狙いとは

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実際、独自技術へのこだわりの強さから、外部からの視点が欠けることもあり、中央研究所が“象牙の塔”となっていた面は否めない。そのうえで鈴木CTOは「(顧客と多く会うことで)研究者の意識を変え、顧客との『協創』を促進する。協創の森で顧客とともにイノベーションを起こしていきたい」と語る。

欧米勢との競争に打ち勝つ本気度

日立は2015年に東京・赤坂に新規事業を顧客と共同で検討する拠点を構えていたが、赤坂はデジタルショールームとして活用する一方、そこに在籍していた研究者数百人規模は今回、国分寺の中央研究所に異動となった。

日立製作所のCTO兼研究開発グループ長を務める鈴木教洋執行役常務(記者撮影)

研究者にとっても顧客にとっても国分寺は都心から離れてしまうが、鈴木CTOは「実際に新規事業を立ち上げるには、実際にモノを見たり、プロトタイプを作ることが必要になる」としたうえで、「協創の森は『地』の利よりも日立が技術やノウハウを育んできた『知』の利がある。その場で試作しながらビジネスを作る深い議論ができる」と強調する。

協創の森では今回、共同研究開発や実証を進めるための枠組み「パートナープログラム」も策定。これに参画すると、プロジェクトベースで日立が未公開の最先端技術をパートナーに紹介し議論を進めていくことができる。

未公開の研究成果については3年の守秘義務を順守することが条件だが、巨大な日立がスピード&オープンに大きく舵を切ることで、ドイツのシーメンスやアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)やIBMなど欧米大手との競争に勝ち残りたい本気度がうかがえる。

今回の改革によって技術者がより力を発揮し、日立を変えることができるか。新たな挑戦は始まったばかりだ。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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