遺言書で「もめる人」「もめない人」の致命的な差 ある書家が残した妻への「最後のラブレター」
相続税がかかるほどではありませんでしたが、各種財産がありましたので、遺産分割協議(遺産を分けるための遺族同士の話し合い)がまとまるのであれば、相続手続きをさせていただきますと答えました。
テーブルには預金通帳や権利書などが用意してありました。その脇に1本の巻物が置いてありましたので、「それは何ですか?」と尋ねたところ、ご主人は書家だったそうで、作品ではないかと奥さんは言われました。念のために奥さんにその巻物を広げていただいて、中身を確認することにしました。
開いてみると、それは作品ではありませんでした。奥さんもびっくりしていました。その巻物は「妻〇〇へ、あなたに出会ったのは昭和〇〇年〇〇月〇〇日○曜日の午後でした。私はあなたに会ってすぐに、あなたのことが好きになりました」という一文から始まりました。そこから先は2人で行ったところ、あった出来事が詳細に書かれていました。
子どもが生まれたときのこと、子どもが育っていく様子、子どもの結婚式、そのときの夫婦の想いなどが次々と書かれていました。これは、ご主人から奥さんへのラブレターでした。
後半に入ると奥さんへの想いがつづられていました。「私と夫婦になってくれてありがとう。今も変わらずあなたのことを愛しています」。とても80歳を超えて書かれたとは思えないような文章でした。「今度生まれてきても私はあなたを妻にします。宜しくお願いします」と続けられる文章を、奥さんは涙を流しながら読んでおられました。
そして、「私はこんなに妻を愛しています。だから、私の財産は全部妻に相続させます。息子たちよ、子どもの頃のように仲良くしろ。そしてお母さんを宜しく」と結ばれていました。
まるでラブレターのような遺言書
最後まで読んで初めて、遺言書だとわかりました。すっかりこのすばらしいラブレターに心を奪われていましたが、これが遺言書だとわかり、我に返りました。これはかつて見たことのない、まるで映画や小説の中に出てくるような、感動的な遺言書でした。
遺言書がある以上、遺産分割協議ではなく、遺言による相続手続きになります。この遺言は、長男と二男の相続分がない遺言なので、両者から遺留分請求があるかもしれません。
長男と二男の考えを聞く必要があります。まずは2人にこの遺言書を読んでもらうことを提案しました。