遺言書で「もめる人」「もめない人」の致命的な差 ある書家が残した妻への「最後のラブレター」
お母さんには一抹の不安がありました。長男と二男はこのところあまりよい関係ではかったそうです。ご主人と長男も多少の衝突があったようです。ご主人の遺言を、2人がどのように受け取るのか不安がありました。それでも私は、きっとお父さんの想いは2人の息子に伝わると思っていました。
お母さんは、その場で長男と二男に電話をしました。2人ともその日は休みで家にいたので、お母さんはすぐに実家に来るように言いました。1時間ほどで2人が到着したので、まずは、お父さんの遺産で今わかっているものについて説明しました。そして、遺言書を読むように言いました。2人は時間をかけてじっくりと遺言書を読みました。
読み終わると、長男が二男に対して、「どう思う?」と聞いたところ、「親父の想いどおりにしよう。俺は何もいらない」と答えました。長男は、「俺も同じです。先生、このとおり手続きをしてください」と言いました。お母さんは号泣されました。私は遺言書の最後の部分『息子たちよ、子どもの頃のように仲良くしろ。そしてお母さんを宜しく』というところを指して、「ここはどうですか?」と2人の息子に聞きました。
長男が、「そこも大丈夫です。兄弟で力を合わせて、お母さんを支えます」と言い、二男もうなずきました。こんな遺言書を見たのは後にも先にも一度限りです。自分1人で考えて作成した遺言書で、これほど見事に想いを表現して、これほど完全に想いが伝わった遺言書はそうあるものではありません。生涯忘れることのできない遺言書です。
遺族を幸せにした遺言書の共通点
今回紹介させていただいた2つの例は、すべてもめる要素を含んだ遺言書でした。しかし、いずれももめない遺言書になりました。
1番目の遺言書は、遺言者が、最も争族(あらそうぞく・遺産相続などをめぐって親族が争うことを意味する)の引き金となりそうな二男に対して、遺言を書く前に遺言内容への理解を得ています。
そして2番目のものは、妻には夫としての想いを、子どもたちには、お父さんのお母さんに対する愛情が伝わる内容になっていて、さすがにこれに異を唱える気にはなれない内容になっています。
このように、遺言者がなぜこのような遺言内容にしたのか、その想いをしっかり相続人に伝えることで、争族を防止できることがあります。