育成選手制度は、「コスト削減」の道具か? アマでもプロでもない野球選手たち
町で一番、地域で一番、やがて地元で話題となったであろう野球少年が、ついに憧れていたプロ野球の選手になると喜んでいたら、背番号は3ケタで、契約金もない。何しろ、正しく言えばプロ野球選手になるのではなく、プロ野球の育成選手になるだけなのだ。
支配下選手とは区別され、育成だからと理不尽な扱いをする球団もある。育成選手の背番号は3ケタにしようと言い出した人は、きっとプロ野球選手という存在を欠片も尊敬していないに違いない。
日本のプロ野球において、支配下選手として登録できる枠の上限は最大70人となっている。しかし平成以降の不況で社会人野球の廃部が相次ぎ、卒業した高校生、大学生の野球をするチャンスが極端に狭まってしまうという危機感が野球界を包んだ。
そこでプロ野球の世界から、支配下選手枠の上限を撤廃すべきではないかという議論が沸き起こった。そうすると、資金力のある球団がたくさん選手を抱え、不公平になるからと反対する球団が出てきて、ルール改正には至らない。そこで”緊急避難”的な発想から生まれた妥協の産物が、準支配下選手の制度、つまりは育成選手制度だった。
“育成”という名にふさわしくない運用
ところが現状では、育成選手を山のように抱えている球団もあれば、これまでに一人の育成選手とも契約していない球団もある。70人枠を撤廃しても不公平にはならないのは火を見るより明らかだ。にもかかわらず、その動きが止まってしまっているのは、育成選手の制度が選手をたくさん抱えたい球団にとって、恰好の経費節減になると気づいてしまったからに他ならない。
2006年に導入された育成選手制度。このオフのドラフト会議でも、6球団から13人の選手が育成枠で指名された。過去、275人の選手が育成選手としてプロ球団と契約を結び、支配下登録されたのは、87人。そこからアメリカ、台湾など海外の選手を除くと72人と、約4分の1の確率ということになる。彼らはプロで育成されたといえば聞こえはいいが、最初から支配下選手として獲得したとしても何の不思議もない力の持ち主だったというケースがほとんどだと聞く。
実際、2006年以降、育成ではない通常のドラフトで指名され、入団時は支配下登録だったのに育成に切り替えられたという、つまりは山室と逆パターンの選手がなんと76人もいる。
この数字を眺めただけでも、ドラフトで指名された選手と育成ドラフトで指名された選手を分けた線がどこにあったのか、よくわからない。なかにはケガ人を育成契約に切り替えるなど、育成制度を故障者リストのように使ったり、外国人を育成枠に多く入れようとしたりするケースもある。
”育成”という名に相応しくない運用を行っている球団があまりに多すぎるのではないだろうか。
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