「独り負け」、第一三共が有望がん薬で反転攻勢 英アストラゼネカと7600億円受領の大型提携

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第一三共にとって「失われた10年」は痛かった。2005年に前身の三共と第一製薬の経営統合(その後に合併)で生まれた第一三共の初代社長の庄田隆氏は、当時としては最大規模である約5000億円を投じ、2008年にインド後発薬最大手のランバクシー・ラボラトリーズを買収した。

ランバクシーの持つ後発薬のノウハウ・販売網を活用して成長する新興国市場で先手を取りつつ、第一三共が足場を持つ日米欧の先進国でもポジションを上げる「複眼経営」をぶち上げた。しかし、買収相手が悪かった。アメリカ食品医薬品局から是正要求を受けたインド工場の品質管理体制の問題を解決できず、最後は巨額の損失を出してランバクシー株を売却し撤退に追いこまれた。

その爪痕は第一三共の長期業績低迷にくっきりと表れている。2018年3月期の営業利益は762億円。同じく長期低迷した武田薬品工業でも2417億円、アステラス製薬が2132億円であることに比べ、その差は大きい。第一三共が「国内売り上げ首位」とうたうほど、第一三共の海外事業の弱さと海外戦略の遅れが目立つ。武田、アステラスと並ぶ「国内製薬3強」と言えば聞こえはいいが、現状は第一三共の「独り負け」が実態だ。

業績と逆に、第一三共の株価は高騰中

一方、株価は逆方向に動いている。この1年の大手3社の株価は、第一三共の株価が大きく上げている一方で武田薬品工業、アステラス製薬は相対的には冴えない。今回の大型提携を受け、第一三共の株価は高騰している。

武田はシャイアー買収でメガファーマのリーグ入りを目指し、海外ではアメリカのブリストルマイヤーズが8兆円で同セルジーンの巨大買収に打って出た。スイスのロシュはアメリカのスパーク・セラピュティクスを約4700億円超で、アメリカのイーライリリーも9000億円近い金でロキソ・オンコロジーを買収するなど、今年に入って大型買収が相次いでいる。

第一三共は中期経営計画で2025年までに7つの製品を発売し、がん分野の売り上げ目標を5000億円としている。2022年度に実現すると修正した売上高1.1兆円、営業利益1650億円の目標は、今回の提携で再度、根底から見直す必要がある。首脳陣は「目標数値の上乗せもある」ことを示唆している。

「非常にインパクトのある契約で、5年先以降の成長にも弾みをつけるものだ」。中山会長はAZとの大型提携に自信を深めている。今回の提携は確かに第一三共の「長い冬」の終わりを告げる朗報ではある。ただし、これだけで第一三共の一人負けを覆すだけのインパクトがあるのか疑問だ。今回の大型提携でできた多少の余裕を生かし、さらに大胆な手を打てるのか。それは、中山会長からバトンを託された次期CEOの眞鍋淳・社長兼COOの手腕にかかっている。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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