「独り負け」、第一三共が有望がん薬で反転攻勢 英アストラゼネカと7600億円受領の大型提携

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注目は、第一三共が営業力に絶対の強みを持つ本国の日本で第一三共の単独販売と売り上げ収益計上をAZが認めたことだ。これはいまだ製造販売の承認も得ていない開発薬ということを考えれば、第一三共には極めて有利な条件だ。アメリカのメルクとがん分野で提携したエーザイは、自社の抗がん剤「レンビマ」の日本国内販売は、エーザイ単独とならずメルクとの共同販促(ただし売り上げは全額エーザイが計上)という内容になっている。

実は第一三共はAZと浅からぬ縁がある。AZの消化性潰瘍治療剤「ネキシウム」の国内販売は第一三共が2010年以降、担ってきた。一時、AZが苦境の第一三共に対し、買収を提案したという報道も出た。提携発表会見では「契約内容に買収をしない条項が入っているか」という質問も飛び出したが、第一三共はノーコメントを貫いている。

さらに、第一三共のがん研究開発部隊を2016年から率いるアントワン・イヴェル氏の存在がある。イヴェル氏は入社前にAZのがん領域の開発トップを務めていた。しかし、実は今年1月からAZのがん研究開発部門のトップについたホセ・バーゼルガ氏がキーマンで、第一三共の中山会長は「彼が今回の提携のサポーターになってくれた」と打ち明ける。

69億ドルを投じるアストラゼネカの賭け

AZにとっても、第一三共との提携は69億ドルを投じる大きな賭けだ。AZのがん分野の売り上げは60億ドルで売り上げの3割を占める。乳がん治療薬「リンパーザ」、肺がんに効く「タグリッソ」など有望な薬を揃えているが、がん免疫チェックポイント阻害剤での盟主メルクやアメリカのブリストルマイヤーズ・スクイブ、スイスのロシュに比べれば、競争劣位にあることは否めない。それゆえにAZは今回の提携と同時に35億ドルの増資を実施し、今回の提携にも投じる。

AZ以上に提携メリットが大きいのが、第一三共だ。まず、AZが持つがん分野の開発力、中国・ブラジルなど新興国での強い開発・販売力などを生かせる。中国など新興国に強いとはいえない第一三共にとって大きなプラスだ。そして、AZとの提携で研究開発資金のポケットが膨らみ、「DS-8201一本足打法」(中山会長)から脱却できる道が開けた。今回の提携で他のADSなどの有力な候補にも資金を回す余裕ができる。実は今回の提携ではここでのメリットが一番大きいのかもしれない。

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