アメリカの「イタい黒歴史」に追随する属国日本 陰謀論やカルトを生み出す「空っぽの容器」

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著者のカート・アンダーセンは風刺雑誌を立ち上げたり、トランプ大統領になりきってアメリカの内情を皮肉に描き出すパロディ本を出版するなどして人気を博す作家で、その筆致は過激なほど辛辣だ。

話はまずアメリカ建国の前段階、16世紀の宗教改革に端を発する。ルターの説いたプロテスタント思想により、「個人の自由」と「聖書に記された超自然的な物語を信じる心」を持った人々が、「伝説の黄金郷エルドラド」を夢見てアメリカ大陸に渡ったというルーツにさかのぼったアンダーセンは、「そもそもアメリカ人とは何か」という問いを解き明かしながら、地続きの物語として、現代のフェイクニュース現象、トランプ大統領登場までを洗ってゆく。

通常、アメリカ建国史の始まりとして語られるのは、故国イングランドで迫害を受け、新しいエルサレムを築くべく、理想を抱いてメイフラワー号で新大陸へとやってきたピューリタン(清教徒)ら「ピルグリム・ファーザーズ」だ。

しかしアンダーセンは、彼らばかりが称えられていることに疑問を持ち、ピルグリム・ファーザーズ以前の入植者と、入植者を送り込むべく躍起になった投資家らの生み出した「詐欺まがいの幻想」の数々を並べ、それらの幻想が敗北した事実があったことに着目。アメリカ人の中で、一部の出来事が神話化され、いわば“イタい黒歴史”のほうは見事に無視されていることを指摘する。

アメリカ熱が生み出した架空のゴールドラッシュ

1492年のコロンブス以降、次々と冒険家たちが新大陸を目指す中、イングランドでは金の探索に燃える入植者が続々と大陸へ旅立った。ところが、現実にはエルドラドなど存在せず、彼らは帰らぬ人となる。すでに投資もしており、一度見た「一攫千金」の夢を信じ続けたいイングランド人は、新大陸に眠るはずの金塊を夢想するあまり、あの手この手で人々を煽るための幻想をひねり出した。

不確かな「また聞きか、また聞きのまた聞き」の報告や文献を都合よく読み、先住民の存在など具合の悪い部分はあまりはっきり考えないようにする。熱に浮かされた人々は、アメリカ大陸を「真珠や金を手に入れられる」「地上で唯一の楽園」「エデンの園」とまで考える幻想バブル状態にはまり、実体のない「架空のゴールドラッシュ」が作り上げられたのだ。

南部バージニアには、1620年の時点で6000人以上の入植者が金を目指して上陸したが、その4分の3以上が死んでしまったという。だが投資家たちは諦めない。大仰な文句の広告を打ちまくり、もはや詐欺まがいの幻想で入植者を騙しては送り込み続けた。現実よりも、自分が信じたい幻想を狂信するカルト状態に陥っていったのだ。

アンダーセンによれば、この風潮の中で登場するのが、理想主義に燃え、その理想を叶えられるユートピアを一心に求めたピューリタン、ピルグリム・ファーザーズである。

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