イチロー引退会見に学ぶ超一流の確固たる心得 人と比べず己とトコトン向き合う男の引き際

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「ポジティブもネガティブも表裏一体であり、それがビジネスの醍醐味」という真理。さらに深読みすれば、「もし今、みなさんにネガティブなことがあったとしても、ポジティブなことも得られるはずなので、ともに頑張っていきましょう」とエールを送っているようにも感じたのです。

ビジネスの大半は団体競技であり個人競技

最後に、ぜひ紹介しておきたい名言を2つ挙げておきましょう。

イチロー選手は、「苦しい時間を過ごしてきて、『将来は、また楽しい野球をやりたいな』と思うようになりました。これは皮肉なもので、『プロ野球選手になりたい』という夢がかなったあとに、あるときから、またそうではない野球を夢見ている自分が存在しました」「『プロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと、草野球を楽しむことはできない』と思っていたので、これからはそんな野球をやってみたいと思います」と語っていました。

「夢がかなうと、別の夢を見たくなるのが人間の性(さが)」「その新たな夢は、目の前のことに向き合わなければ実現しない」という意味では、ほかのビジネスシーンも同じ。例えば、知人の出版社営業マンは、夢だった編集部への異動を実現させたあと、「今になって営業のやりがいや面白さがわかった」「自分がやりたかったのは営業のような気がしてきた」という気持ちになったそうです。もしかしたらイチロー選手は、夢の大切さだけでなく、それにこだわり続けることの無用さを言いたかったのではないでしょうか。

もう1つの名言は、「野球の魅力はどんなところか」と聞かれたときの「団体競技なんですけど、個人競技だというところ。『チームが勝てばそれでいいか』というと、全然そんなことはないですよね。個人としても結果を残さないと生きていくことができません。その厳しさが魅力であることは間違いないかなと」というコメント。

「団体競技であり、個人競技」という点は、みなさんの所属する組織にも通じるところはないでしょうか。イチロー選手のコメントは、ハラスメントを避けるべく個人指導を減らす風潮が広がる中、「組織の一員だからといって、個人で結果を出すことを後回しにしてはいけない」「仕事では厳しいからこそ得られるものがある」というメッセージに見えたのです。

イチロー選手は会見で、「僕から(みなさんへ)のギフトなんかないです」と話していましたが、試合後の深夜0時すぎにもかかわらず、これだけ含蓄のある言葉を贈ってくれました。「僕はゆっくりする気はないです」とも語っていただけに、これからも立場こそ変われど、私たちにさまざまな気づきや学びを与えてくれるでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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