イチロー引退会見に学ぶ超一流の確固たる心得

人と比べず己とトコトン向き合う男の引き際

こちらも回答をきっぱり断っているのですが、その理由を簡潔に説明することで、記者たちを納得させていました。決して「自分のポリシーを貫く」ということではなく、「そのほうが面白いでしょ」というものであり、だからそれを減らすような質問には答えなかったのです。イチロー選手にしてみれば、「これは答えるレベルの質問ではない」と感じたので、無理につきあおうとせず、簡潔な説明で終わらせたのでしょう。

実際、記者の思い入れがあふれた長い質問に対して、「長い質問に申し訳ないですけど、『ない』ですね」と返すシーンもありました。約80分が過ぎたころ、「今日はとことんおつあいきしようと思っていたんですけど、お腹減ってきちゃった」といたずらっぽく笑いながら話したのも、「これ以上は、あまり答えるべき質問はないだろう」と思ったからではないでしょうか。

愛されるビジネスパーソンの人柄には、さまざまなパターンがありますが、イチロー選手のそれは、率直さ。「あの人に断られても仕方ないかなと思える。憎めない人だなと受け入れたくなる」と感じさせるものが、今回の会見に表れていたのです。

そんなイチロー選手の率直さは、「誤解を恐れずにネガティブな感情も話す」「あまのじゃくと思われても気にしない」ところにも表れていました。

「誤解を恐れない」ポジネガ・ネガポジ変換

「野球が楽しくなる瞬間はあったか?」というポジティブな質問にもかかわらずイチロー選手は、「やはり力以上の評価をされるのは、とても苦しい。もちろんやりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうことはたくさんありました。しかし、『楽しいか』というと、それとは違います」とネガティブなコメントを返しました。

また、「選手生活の中で得られたものは?」というポジティブな質問に対しても、「『まあ、こんなものかな』という感覚ですね。200本(年間安打)をもっと打ちたかったですし、できると思ったし、メジャーに行って1年目にチームは116勝して、次の2年間も93勝して、『勝つのってそんなに難しいことじゃないな』と思っていたんですけど、勝利するのは大変なことです。この感覚を得たのは大きかったかもしれないですね」とネガティブなコメントを返しました。

その一方で、「かつて『孤独感を感じてプレーしている』と言っていたが、ずっとそうだったか?」というネガティブな質問に対しては、「現在それはまったくないですね。アメリカでは、僕は外国人ですから。外国人になったことで人の心をおもんぱかったり、痛みがわかったり、今までなかった自分が現れたんですよね。体験しないと自分の中からは生まれないので、孤独を感じて苦しんだことは多々ありましたが、『この体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだよ』と今は思います」とポジティブなコメントを返しました。

まさにポジネガ変換、ネガポジ変換のコメントですが、あまのじゃくというより、「『ただよかった』『ただ悪かった』と簡単に語れるものではないんだよ」と言いたかったのではないでしょうか。

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