注目の「ユーロ圏の日本化」を元祖が徹底解説

ISバランスなどマクロ経済の構造が重要

民間部門の貯蓄過剰

理論上、経常黒字は貯蓄投資バランス(以下ISバランス)の結果である。ISバランスは当該国・地域のマクロ経済構造を端的に映す計数だ。筆者は本の中で「民間部門の貯蓄過剰はデフレのサイン」として、相応の紙幅を割いて日欧の比較を行った。とりわけ以下の内容を今一度、ご紹介したい。7つの共有体験の中で筆者が最も構造的かつ重要な事実だと考えているので、長くなるが、引用しておきたい。

日本における民間部門の貯蓄過剰はバブル崩壊直後の1990年代初頭から始まった。より正確には、1980年代から家計部門は常に貯蓄過剰であったが、1990年以降は家計部門に加え、それまで貯蓄不足だった企業部門まで貯蓄過剰に転じたという経緯がある。
これはバブルが崩壊するまでの企業部門は、家計部門の貯蓄を(銀行などを通して)借入れることで旺盛な消費・投資行動に充てていたが、バブル崩壊後は傷ついたバランスシートを復元するために、とにかく借金返済や手元資金確保に奔走するようになった様子を表している。<中略>
解消されない民間部門の貯蓄過剰はひとえに活力に乏しい実体経済の反映であり、物価下落や円高と並んで、デフレ経済の象徴と言っても過言ではない。

 

2007~08年のバブル崩壊及び金融危機を経て、民間部門の貯蓄過剰現象はユーロ圏でも見られ始めている。ユーロが導入された99年以降、家計部門と企業部門が同時に貯蓄余剰方向に振れるような事態は経験がなかった。
ユーロ圏の問題が深刻なのは、民間部門が貯蓄余剰になっている分、政府部門がその資金を借り入れて消費・投資しなければならないところ、政府部門まで一緒になって消費・投資を控え、貯蓄過剰方向へ舵を切ったことである。2009年以降、政府部門の貯蓄不足が急速に縮小へ向かっていることがそれを表している。家計も企業も政府も積極的に消費・投資をしなければ当然ユーロ圏経済全体としては貯蓄過剰になり、海外部門が貯蓄不足(経常黒字)となる以外にない。<中略>
1989年のバブル崩壊そして1990年代の金融危機を経て、日本企業は借金をして消費・投資することを忌避するようになったと言われるが(今も見られている企業部門の貯蓄過剰はその証左である)、金融危機後のユーロ圏のISバランスを見ている限り、同様の状況に陥るサインが点灯しているように思える。

 

さらに貯蓄過剰はひどくなっている

2013年当時と比べてユーロ圏全体のISバランスはさらに貯蓄の過剰が増している。財政緊縮の結果、政府部門の貯蓄不足幅が急速に縮まったことが目につく。先に述べた経常黒字はバランスシート調整の結果、ユーロ圏の民間部門が貯蓄過剰となっているということを海外部門の側から見たものなのである。民間部門の消費・投資意欲が発揮されるような投資機会がないからこそ、資金が債券市場に回り、各国の金利が低位安定している。

単にドイツ国債の金利が低いことや相場のボラティリティが低いことを日本化と呼ぶわけではない。また、中央銀行(ECB)が量的緩和政策(QE)をしていることを日本化と呼ぶわけでもない。それらはユーロ圏以外の主要国でも見られる近年の傾向である。重要なことは、そのような傾向が出てくる背景に相応のマクロ経済構造の変化があるということであり、とりわけ動学的資源配分の要であるISバランスに現れるという事実である。危機前後でユーロ圏のISバランスの形は明確に変わった。

なお、2013年当時からドイツは政府部門を含めた国内経済部門のすべてが貯蓄過剰という異形な構図になっていたが、その「異形さ」は2018年までの5年間を経ても不変である。この点、日本化を超える異常事態だと筆者は考えている(「トランプの貿易戦争、ドイツに非はないのか」を参照いただきたい)。

日本は政府部門が貯蓄不足となることで底割れを防いできたが、ドイツは「永遠の割安通貨」の存在も手伝ってその必要がないという面があるのだろう。このような構図はユーロ圏全体でも強まっている。財政支出の多寡をドイツ好みのEUルールで縛っているのだから当然の結果でもあるが、ユーロ圏は日本化のかたわらドイツ化をも強いられているといえよう。

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