お笑いレッドカーペットと、オンラインコラムの共通点
まずいい本を作るにはいい本を書ける著者を発掘する必要があるのだが、「東洋経済オンライン」がほかのビジネス誌のオンライン版と違って特徴的なのは、別に名前の売れた業界の重鎮どころばかりに執筆を依頼するのではなく、果敢に無名の書き手を発掘してくるところにある。
もちろん書き手のクオリティをコントロールしなければ、プラットフォームとしての価値や信頼性は落ちてしまう。そのため長年の人間関係や信頼できるネットワークから紹介を受けた人を吟味して執筆者を見いだしていくわけだが、この“新たな筆者を見いだし開拓する”ために、編集部の幅広い上質なネットワーク構築力が試されることとなる。
また誰でも最初の数本のコラムは今までの人生を通じた渾身のネタを使い面白いものを書けるので、人気ランキングは高くなるのだが、それが一発屋なのか持続性があるのかを見極めるのも編集部の大きな役割の一つである。
ちなみにオンラインコラムは、お笑いレッドカーペット的な位置づけで、長期的に執筆力のある人を探すために試してみる、いいテスト・マーケットと言えるだろう。紙だと大量の在庫を捌けないが、ネットだと在庫が発生しないのでコストを非常に低く抑えつつ、商品であるコラムを市場に投入できるからだ。
もちろん一発屋でも一回大いに稼いでくれればそれでいいのだが、著者の知名度が上がるように出版社としても投資をするので、末永くヒット作を継続的に生み出す力のある著者を探し当てないと、出版社としても投資効率が下がってしまうのだ。
この点、先日のコラムでも指摘したが、メディアの編集部の役割と金融の投資担当者の役割は共通点が大きいとも言えよう。投資の世界でも、一時的にいいニュースフローを生み出す会社は一時的に上がるが、すぐ売り浴びせられる。大切なのは継続的にいいニュースフローを生み出すいい会社を適切な価格で見出し、長期的に投資することなのである。
本は内容だけでなく、売り方・売るタイミングが重要
実は「グローバルエリートは見た!」の書籍化は連載当初から話が上がっていた。大変ありがたいことに、ほかの出版社の皆様からも早くから数多く、書籍化のお声をかけていただいたのだが、本書の担当編集者は連載の人気が高まっているのでさらに認知度を上げて、機が熟した頃に出すのがいちばん、と書籍化のタイミングを慎重に推し量っていた。本の販売はコンテンツのクオリティ以外の要素も非常に大きいのである。
そういえば以前、類まれな作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんと電話で話す機会があったときに、なぜ佐藤さんの本はそんなに売れるのか、本を売る秘訣を聞いたところ「運と表紙のタイトル、それで大半が決まります」と言われて「またまた大げさな・・・・」と内心思ったものだが(おそらく冗談でおっしゃられたのだと思うのだが)、表紙に書かれている著者の名前がそもそも読者に知られているか(読者が知っている人か)どうかが、決定的に重要らしい。
東洋経済編集部曰く、どれだけ優れた内容でも、そもそも著者の名前を知らないと、読者の皆様はなかなかお金を出してまで買ってくれないようだ。
このような事情もあって、「グローバルエリートは見た!」が1年くらい連載されて、何度か炎上を繰り返して認知度が高まったところで、満を持して書籍化に踏み切ったという経緯がある。
ここでのポイントは、世の中の商品・サービス全般にあてはまることだが、そもそもブランドが知られていないと、消費者が購入に至るまでの心理的バリアが大変高いということである。
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