新卒以外の"潜在能力"はなぜ報われないのか 失われた技能蓄積の機会は、このさき取り戻すことができるか?
なぜ老舗企業は新卒採用に行きつくのか?
学歴と数回の面接だけで労働者の潜在能力を見分けることはとても難しいので、最後は優秀な人材である確率がどれだけ高いかという問題になる。そのため企業は、できるだけ能力の高い人材が集まるプールから人を採ろうとする。
新卒者には潜在能力の高い人がいる確率がそれなりに高い。そうなると老舗大企業は潜在能力の高い人がいる確率の高い新卒労働市場でよさそうな人々を摘もうとする。
一方の第二新卒市場では、新興企業や中小企業が最初の職場とたまたま相性の悪かった人を摘もうとする。
ここで一旦、既卒者に目を転じると、そこには「潜在能力が高く正社員就職したものの職場とも相性が悪く転職活動している人」と「新卒時の就職活動で正社員の仕事に就けなかった、少なくとも企業から潜在能力を高くは買われなかった人」がいる。
いちばん厳しいのが新卒時に正社員として就職できなかった人々のプールだ。この集団の中には、潜在的に優秀だが、卒業のタイミングがバブル崩壊や金融危機と重なり正社員就職できなかったという人もいる。しかし、プール全体の平均能力が新卒者や正社員からの転職組と比べて低いというだけの理由で、企業の目は厳しい。
その不条理を赤木智弘氏が2007年に訴えて共感を呼んだが、技能蓄積の機会が十分に与えられないまま6年たった今、問題はより深刻になっているとみるべきだろう。
企業には労働者の能力がよくわからないため、外形的な情報に頼った採用をせざるを得ない。そのような労働市場における情報の非対称性が裏に横たわっているだけに問題の根は深い。
新卒一括採用に話をもどそう。新卒一括採用の背景には内部労働市場を通じた人材育成があることを指摘したが、国際的にみても異例なほどに広汎な新卒一括採用を説明するには、日本の内部労働市場が諸外国に比べて発達していることを示す必要がある。
これについては、古くから多くの研究があり、日本の労働者の一社あたり勤続年数が平均的に長いこと、勤続年数に伴う賃金アップが平均的に大きいことなどが国際比較で明らかにされている。つまり、内部労働市場を通じた人材育成がポート・オブ・エントリーの制限をもたらし、それに労働市場における情報の非対称性が加わると新卒一括採用が重視されるようになるのだ。
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