子どもを「花粉症にさせない」ためにできること シカゴ大教授が説く「最強の免疫力」の育て方

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私たちがエリカらと行った研究では、この点を追認する多くの事例を見つけた。アーミッシュとフッター派の人々は、テクノロジーを拒否して素朴な暮らしを選んだ、アメリカの二大宗教集団である。だが、両者には興味深いちがいがある。アーミッシュでは喘息の発症率が低いのに対して、フッター派の人々ではアメリカ平均の4、5倍だ。2つの集団間で唯一違うのはライフスタイルである。どちらも、多くの世代にわたって東欧で農耕によって暮らした同一の祖先の末裔で、遺伝学的に両者を分けるものは何もない。

では、何が起きたのだろう? アーミッシュは家族の牧場で暮らし、子どもたちは牧場という環境と広く関わりながら育つ。親と同じ場所で働き、ブタ、ウシ、ヒツジの世話をする。赤ちゃんのときも、両親が牧場で働くあいだ背負われていることが多い。

フッター派の子どもはこれとは異なる経験をする。文化と生活上の必要性によって、牧場に立ち入ることを許されない。フッター派は巨大な集団を形成して暮らし、家々が中央の牧場周辺に配置されている。毎朝、男性と14歳以上の少年は車で牧場に連れていかれ、家畜の世話をしたり畑地で働いたりする。

アーミッシュに比べてかなり機械化を進めているとはいえ、それでもまだ喘息の発症率のちがいは原因がわからない。フッター派の子どもたちが早期に動物と触れ合わないことが、喘息になる率が高い原因であるように思われる。ヨーロッパの祖先は牧場のあらゆる細菌やアレルゲンにさらされ、その結果強力な免疫系を獲得したが、アメリカで生まれた子孫は子どもたちからこの経験を奪い取ってしまったのだ。

子どもを牧場・農場へ連れて行こう

私たちは、研究で衛生仮説を検証した。喘息になりやすいマウスをこれら2つの牧場環境から採取したハウスダスト(家の中のほこり)にさらし、喘息の発症率の変化を調べた。驚くことに、アーミッシュの家の埃と微生物にさらされたマウスは喘息から守られたのに対して、フッター派の場合はそうならなかった。

現代人の暮らしはとても快適だ。子どもは労働に駆り出されない。家事も最小限で、子どもたちは危険な病気から守られている。人間にとっていかにも好都合だ。公的な保健制度が、小児の死亡率を減らし、疾患の蔓延を防ぐのに大きな役割を果たした。

清浄な水や良好な衛生状態は特定の病原体に対するワクチンとは目的が異なるが(ワクチンは危険な病原体に対する暴露を防ぐというより、暴露されたときに私たちを守ってくれる)、私たちの体は現実の世界にあるさまざまな危険から保護され、祖先が日頃慣れ親しんでいた無害な細菌や危険度の低い細菌にさらされることもなくなった。

だから、牧場に出かける、または――できれば――地元の農業やガーデニングの体験プロジェクトに参加することが大切なのだ。必要なワクチンを接種し、感染症の病原体にまつわる基本的知識(ブタのフンを食べない、生肉や腐った肉に触った手を口に入れないなど)を身につけていれば、お子さんは自由に環境を探検して汚れていい。

ジャック・ギルバート シカゴ大学外科学教授

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Jack Gilbert, Ph.D

シカゴ大学外科学教授および同大マイクロバイオーム・センター長。アース・マイクロバイオーム・プロジェクトおよびアメリカン・ガット・プロジェクトの共同創設者。

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ロブ・ナイト カリフォルニア大学サンディエゴ校小児科学教授

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Rob Knight, Ph.D

カリフォルニア大学サンディエゴ校小児科学・コンピュータ理工学教授、ならびに同大マイクロバイオーム・イノベーション・センター長。アース・マイクロバイオーム・プロジェクトおよびアメリカン・ガット・プロジェクトの共同創設者。

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