子どもを「花粉症にさせない」ためにできること シカゴ大教授が説く「最強の免疫力」の育て方
幼い子どもが動物に親しむとき、じつにさまざまな戸外の細菌にさらされ、発達中の免疫が訓練される。できるだけ牧場に行こうというのは、このためだ。
牧場で育った子どもは、喘息やアレルギーになる可能性が低い。iPadを1日中手放さない子どもと違って、外でよく遊ぶ子は花粉、植物、土、環境中の細菌にさらされる。この子たちもアレルギー反応を見せることは少ない。
興味深いことに、19世紀末にはイギリスやアメリカの上流階級で花粉症が流行っていた。しかし、動植物との接触が多い畜産農家の子弟はそうでもなかった。1990年代のスイスで、科学者が「牧場効果」を発見した。町で育った子どもと比べて、牧場で育った子どもは花粉症や喘息になることが半分ないし3分の1少なかったのだ。牛舎にたくさんいる微生物が牧場の子どもたちを守ったのである。
研究者の私たちにも、思い当たる節がある。子どものころ、著者の1人ジャックはラット、カメ、イモリ、カエル、ヘビ、ナナフシ、昆虫、イヌ、トカゲを飼い、アレチネズミを家の外のトンネルで飼っていた。もう1人の著者のロブのテラリウムにはカエル、トカゲ、ヘビ、カメ、サンショウウオがいて、家族はニワトリ、ネコ、ラット(そう、わざわざ飼ったのだ)、イヌ、野外で捕まえたシカを飼っていた。当時はなぜそれが大事なのかは知らなかったが、私たちは動物の珍しい細菌に親しんだ。
周囲にアレルゲンが少ないほどアレルギーに
子どもを自然にさらすのがよいという考えは「衛生仮説」として知られる。研究仲間のエリカ・フォン・ミュティウスが信奉するこの説によれば、免疫系を効果的に刺激するには子どもたちの環境は「あまりに清浄すぎる」ことが多いのだそうだ。
科学者が衛生仮説を提唱しはじめたころ、子どもがアレルギーか喘息を発症する率と、その子の家から約1.6キロメートル範囲内に見つかる動植物種の数に明確な相関性が見つかった。どうやら、局所的な生物学的多様性が子どもの免疫経験を左右するように思われる。周囲にアレルゲンが少なければ少ないほど、子どもはアレルギーを起こすのだ。
エリカの研究では、接触した動植物の数ではなく、それらの動植物にいる細菌の種数が重要であることが示されている。こうした微生物の多様性が衛生仮説に信憑性を与える。動物が持つ広範な細菌種にさらされて育った子どもは、これらの細菌によって免疫が訓練される。細菌が多様であればあるほどいい結果が望めるのだ。
現在、免疫不全の人が少ない集団を探すと、家畜とまだ直接触れ合う機会のある人々が見つかる。イヌに親しむ環境にある子どもは、そうでない子どもより喘息の発症率が13%低い。喘息治療にかかわる免疫学者の大半が、イヌを喘息の「原因」、ないしは少なくとも守ってくれるというより悪化させる要因と見なしていることを考えるなら、これは驚くべき数字と言える。同様に、牧場で育つ子どもは多くの似たような理由によって喘息の発症率が50%低い。