企業に「社員教育を強制」するイギリスの思惑 最低賃金引き上げに「スキルアップ」は不可欠

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しかし、今の日本では規模が非常に小さい企業が多すぎて、人口減少時代を生き延びるのに必要な最先端技術の活用が進んでいないのが現実です。活用するのもままならないほど、規模が小さい企業が多すぎるからです。企業の規模を拡大させていかないと、たとえ最先端技術があったとしても、その技術は普及しません。

とはいえ、「人口減少に対応するために企業の規模拡大が必要です」と言うだけでは、「わかりました、ほかの企業と統合します」と素直に実行する経営者は少数派でしょう。現時点の産業構造から、人口減少時代に対応するための産業構造に転換させるための「インセンティブ」を考える必要もあるのです。

「企業統合を促進して企業数を減らすべきだ」と主張すると、すぐに「リストラで失業者が増える」という反論がわき上がりますが、それは人口増加時代の考え方であり、人手不足がますます深刻化する今後の日本には当てはまりません。

人口減少時代を生き抜くための必須事項である生産性向上を、企業に強制的にやらせるために、私は最低賃金を継続的に引き上げないといけないと考えています。なぜならば、最低賃金が生産性と最も相関関係が強いからです。最低賃金を毎年約5%ずつ継続的に引き上げていけば、生産性向上を強制することが可能になります。

最低賃金の引き上げは、あくまでも経営者にショックを与えるレベルにとどめ、パニックを引き起こさないようにするのが重要です。昨年、最低賃金を16.4%も一気に引き上げた韓国では、パニックが起きてしまいました。同じ轍を踏まないように、引き上げ幅は毎年5%程度にするべきです。

最低賃金が毎年高くなるということは、人件費が毎年上がることを意味しています。そうなれば、経営者は知恵を絞って、人件費の増加分を捻出しなくてはいけなくなります。例えば企業のあり方を変えたり、新しい商品を開発したり、より付加価値の高い商品とサービスを提供するなどの工夫が必要となります。

つまり、高生産性・高所得経済モデルに移行しなくてはいけなくなるのです。

この移行の途上にあるのが、観光戦略です。例えばホテルや旅館などの宿泊施設は、かつては社員旅行や修学旅行など、大人数の団体客を、短い期間、狭い部屋に低価格で泊めるスタイルが主流でした。

インバウンドを含めた、国内の人口増加を基礎としない観光戦略を考え、大量生産的な戦略をやめて、部屋数を減らし、1部屋のサイズを広くし、設備やサービスのレベルも高めて、高い料金をいただけるようにするのが、典型的な高生産性・高所得経済モデルへの移行例です。だから、パイが決まっているから最低賃金の引き上げに対応できないと決めつけるのではなく、設備投資によって「パイを拡大することができる」ことを理解する必要があります。

賃金上昇には「社員のスキルアップ」も欠かせない

仕組みとして毎年賃金が上がる状況を作るのであれば、社長だけではなく、当然労働者のほうも毎年スキルアップしていかなくてはなりません。学校教育で取得した知識のみをベースに、生涯、知識のアップデートをしなくてもなんとかなっていた時代はもう終わったのです。

寿命も延びているので、何十年も前に学校で教わった知識をそのまま活用すれば大丈夫だというのは、あまりにも悠長な考えです。労働者を改めて教育し、スキルアップさせることは、国全体の生産性の向上にも欠かせません。

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