企業に「社員教育を強制」するイギリスの思惑 最低賃金引き上げに「スキルアップ」は不可欠
すでに何回か紹介している、イギリス政府の依頼で行った分析でも、労働者の教育の必要性が検証されています。この分析では、生産性向上の基礎として5つの項目が分析されていますが、社員教育が生産性の向上につながる3番目の要素であることが明らかにされています。
1番のアントレプレナリズム(entrepreneurism)と生産性向上の相関係数が0.91、2番目の設備投資が0.77に対し、社員教育は0.66で、4位の技術革新の0.56を上回っています。
ドイツのある分析によると、トレーニングを受けている社員の割合を1%上げると、次の3年間で生産性が0.76%上がるという結果も出ています。
実際、EUでは研修参加率と生産性の間に、強い相関が見られます。
EUの研修参加率と生産性の相関係数は0.5ですが、アイルランドとルクセンブルクを除くと0.77となります。この2カ国を除く理由は、両国とも人口が少なく、海外からの労働者や外資系企業のアウトソーシングが多いなどの特殊要因があり、異常値が出ているからです。
つまり、技術革新はそれ自体、当然大事なのですが、それを使おうとするentrepreneurism、そして、その最先端技術を買うための設備投資が必要で、さらに、その最先端技術を使うための教育も必要なのです。教育が行われないと、せっかくの最先端技術もただの潜在能力として生かされずに終わってしまうことになるのです。
これは当然と言えば当然のいわば「常識」ですが、日本では学者をはじめ、日本の技術力の高さに酔いしれ、「普及のための教育」を軽視する傾向が強いように感じます。
「社員教育」で成功したデンマーク
実は今、北欧のある国が、世界中の学者の注目を集めています。デンマークです。この国は高生産性・高所得経済への移行を実践し、大変な成功を収めました。この成功実績はデンマークモデルと呼ばれ、多くの学者や政治家が視察に訪れて、活発に研究が進められています。
デンマークにはすべての業種を横断する共通の最低賃金はありません。しかし、各業種別の最低賃金は決められています。そして、毎年、賃金の団体交渉をするときに、賃金アップを実現するための研修内容もセットとして交渉するのです。
デンマークでは企業の研修が充実しているだけではなく、政府もOECD加盟国の中で最も人材育成に投資をしています。これがデンマークの高生産性・高所得モデルの成功の秘訣であると分析されています。
デンマークでは労働規制が柔軟に設定されている一方で、社会保障が充実しています。この仕組みはflexible(フレキシブル)とsecurity(セキュリティ)を合わせた言葉flexicurity(フレキシキュリティ)と呼ばれ、デンマークの1つの特徴になっています。
デンマークの成功の秘訣を分析する中で、対照的な例としてニュージーランドの例がよく取り上げられています。
ニュージーランドもデンマークと似たような経済政策を導入し、ある程度の効果が出ているのですが、デンマークほど目覚ましいものではありません。その理由について、ケンブリッジ大学が人材教育の違いを指摘しています。
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