ペイペイ巨額還元に打ち勝つ「楽天ペイ」の野望 楽天ポイントの2500億円還元は持続可能か

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――楽天ポイントでつながる経済圏が、オンラインから、だんだんリアルへと拡大していきます。しかし、楽天のポイントが他のお店で使われるのを市場の出店者は嫌がらないでしょうか?

2002年に楽天がポイントプログラムを開始するとき、当時私が担当していた400の楽天市場出店者に全部電話をかける経験をした。100円で1ポイント貯まることには「いいね」と言ってもらえるが、原資の負担は皆さんですよと言うと「マジか」となる。当たり前だと思う。それはやはり、自分のところで出したポイントが別のところで使われるのがイヤだったからだろう。

でもそのとき、これはマーケティングの再投資に向けるためにやるんですということを出店者の皆さんにしっかり約束した。ポイントプログラムの価値は結局、いかに貯まりやすく、いかに使いやすいかで決まる。貯まるけど使えないというような、循環しないポイントはまったくダメ。ばんばん貯まって、ばんばん使えるという方がいいに決まっている。楽天はそれを追求してきたから、外部調査で最も満足度の高いポイントプログラムになった。結果、楽天市場に来るお客さんもものすごく増えた。メリットを享受したのは利用者であり、店舗だ。

この循環にはリアルの世界も巻き込める。リアル店舗で発行されたポイントが市場やトラベルの店舗に行くし、もちろんその逆もしかり。そもそも2014年にリアル店舗でもポイントが貯まる・使える仕組みを楽天ポイントカードで作っていなかったら、今のような楽天ポイントの人気はなかったかもしれない。

――ポイント発行額は年々増え、しかも「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」などの取り組み強化で、特に楽天本体の費用負担が増しています。ある意味ペイペイの100億円キャンペーンみたいなものを恒常的に行っているような状態ですが、このモデルは本当にサステイナブル(持続的)なんでしょうか?

楽天傘下のスポーツチームのホームスタジアムでは、今シーズンから「完全キャッシュレス」の取り組みをスタートさせた(写真:楽天)

少なくとも、一時期にぽんと目立つ形で還元キャンペーンをやるよりは、サステイナブルな仕組みじゃないかと思う。しかも僕らは、キャンペーン中の他社と違い楽天ペイなどの加盟店手数料をゼロにしていない。その理由は、われわれの決済サービスを武器として使ってもらって、店舗の商売全体、ひいては楽天全体を大きくしてもらおうという思想が強いから。タダだから入れてくださいというのは違う。

2002年にポイントプログラムを始めて、もう17年やっている。この間サステナイブルだったのだから、この先もサステイナブルなのだろうと思っている。赤字を出し続けているわけでもない。

「完全キャッシュレス」を進める

――年初に完全キャッシュレスの「スマートスタジアム構想」を発表しました。まずはヴィッセル神戸のホーム・ノエビアスタジアム神戸での取り組みが始まりましたが、手応えは?

「使いづらい」みたいな声は想定していたより少なかった。むしろ「便利だから市中でも使おうかな」という声も聞かれたほど。やはり皆さん、取っかかりが用意されているとキャッシュレス生活に入りやすいのかなと感じた。結果として、イニエスタ選手が出場して客入りがよかったこともあるが、売上高は昨年の開幕戦を上回った。自分が現地で見ている中では、ポイントが使えるし、もう少し高いものを買おうかな、みたいな話も聞こえてきた。

『週刊東洋経済』3月4日発売号(3月9日号)は、「狂乱キャッシュレス」を特集。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ただ初めての試みでかなり不安だったので、かなり人員を投入して、万全の体制で臨んだ。「×(バツ)現金」と書いた札をたくさん下げ、大きな看板も出して。どうしても現金しかないという人にも対応できるように、エディのプラスチックカードをプレゼントしたり、販売したりして、現地でチャージできるようにしている。お子さんが来ても困らないように、今回新たに小銭チャージ機も開発した。これまでチャージ機には紙幣しか入らなかった。これは大人の方にも好評だった。財布に小銭が入っていると邪魔だという人も多い。

お店の人のオペレーションも、レジ締めなどの作業が非常に楽だったと聞いた。こういうのは中途半端にキャッシュレスになってもあまり負担は軽くならないので、「完全キャッシュレス」という形でどんどん進めたい。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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