ECBもハト派に急旋回でユーロ相場はどうなる ドラギECB総裁は「利上げできずに退任」へ
ちなみに今回の会合の目玉であるTLTRO3だが、現時点で詳しい仕様は公表されていない。現在わかっている条件は、①2020年9月に開始され2021年3月まで実施されること、②資金供給の満期は2年であること、③主要リファイナンスオペ金利に連動する変動金利であること、④2月28日時点の適用可能貸出残高の30%を上限とすること、である。
これらを見る限り、TLTRO2で話題となった貸出実績に応じてマイナス金利ボーナスがもらえるという特性はTLTRO3には想定されていない。ドラギ総裁も会見で解説したとおり、今回の措置は今後2~3年を見通した際にユーロ圏の金融機関を取り巻く資金調達環境がタイト化する状況に対応するものである。その状況をドラギ総裁は「混雑(congestion)」と呼んでいる。
前回のTLTRO2はどちらかと言えば、「マイナス金利で収益性が劣化している銀行への補助金」という様相が強かったが、今回は必要に迫られて実施されるものであるため、そうした「ごほうび」は不要ということかもしれない。
「混雑(congestion)」の背景は既存のTLTRO2が2020年6月に第1回目の満期償還(当初実行額の約4000億ユーロ相当の大半がまだ未返済)を迎えるほか、大量の銀行債償還や各種規制対応が指摘されている。この点、TLTRO3を緩和策ないし刺激策であるかのように捉える解説や報道は本質的には誤りである。金融機関の資金調達環境を整えることと、緩和措置は似て非なるものであり、今回のTLTRO3自体、景気が失速する以前から政策理事会でも話題には出ていたことに注意されたい。
対ドルではユーロは買い場である
2019年を中心としてこれだけ経済・物価見通しを大幅に引き下げた以上、よほどの想定外のショックがない限り、経済・金融認識の修正に伴う追加緩和は難しくなったようにも思える。実際、「拡大資産購入プログラム(APP)の再開」という大きな一手を除けばECBにはもうほとんど手が残されておらず、これを使うにしても、そのタイミングは相当慎重を期してくるだろう。
もちろん、すでに述べたように、フォワードガイダンスを再び延ばすことは高確率で想定されるが、それは市場予想の後追いであり、さほどユーロ売りには効かないと考えたい。こうした状況下では、ECBからさらなるユーロ売り材料が出てくる可能性はあまり高くないというのが筆者の見立てである。
一方、会見でもドラギ総裁が言及していたように、2019年のアメリカ経済はトランプ減税の効果が徐々に剥落していく(a waning effect of the fiscal package)ことが予想される。その際、FRBを取り巻く環境は変わっているだろう。えてして楽観は徐々に強まるが、悲観が支配する時は一瞬である。
ドルは金利も為替相場も頭一つ抜け出たポジションが続いてきたことを思えば、より調整にさらされやすい通貨と考えるべきではないか。現在はまだ悲観ムードが支配的であるが、考えようによっては、対ドルでのユーロ相場は買い場が到来しているように思われる。
※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です
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