「ドル化した世界」がFRBの利上げ路線を阻む 「日米金利差拡大による円安」も実現しない
アメリカ経済の復調とFRB(米国連邦準備制度理事会)のタカ派路線復帰が取りざたされはじめ、その結果として、アメリカの金利とドルの上昇を予想する声がにわかに聞かれるようになってきた。
確かに、アメリカの雇用・賃金情勢には相変わらず堅調さが認められ、今年7月をもって史上最長の景気拡大(121カ月目)を難なく更新しそうである。しかし、この流れに乗って、再び過去5年のようなアメリカ金利とドルの相互連関的な上昇が戻ってくると考えるのは、現実的だろうか。
そもそも、昨秋以降、なぜFRBが政策姿勢を急旋回させたのかを今一度思い返したい。その理由は1つではないが、少なくとも、①資産価格(不動産価格や株価など)、②新興国を中心とする「ドル化した世界」という2つに配慮するとの論点があったはずだ。この2点こそ2018年の金融市場に最も混乱をもたらしたテーマだった。たった2カ月で忘れるわけにはいかない。
このうち、①に関しては多くの説明を要さない。アメリカ10年金利が3~3.2%といった大台に乗った直後、株価が急落したのが昨年2月と昨年10月だった。今後、10年金利が再び上値追いとなったとしても、同様のことが起きるとみるべきだろう。3%を超える長期金利上昇は株式市場に徹底的に嫌気されると考えたほうがよい。
とすれば、ここからアメリカの金利とドルが一段と加速し、ドル円相場も押し上げられるというシナリオにはやはり難がある。最近1~2年は株式市場が荒れても昔ほど円高にならなくなったことは確かだが、「株価急落時に円安が進む」ことはほぼありえない。
新興国で積み上がった債務
大局的な観点から相場を見通すのであれば、より気にしなければならないのは2点目だ。1点目が「アメリカ経済(株式市場)が金利上昇に耐えられるのか」という視点だとすれば、2点目は「世界経済、とりわけ新興国が金利上昇に耐えられるのか」という視点である。
ここで気にしたいのは、危機後の国際金融市場において、「全世界、特に新興国で債務が急増した」ことである。リーマンショック前夜の2006年末と直近値(2018年6月末)を比較した場合、政府・民間を合わせた非金融部門向け与信は全世界で約97兆ドルから約178兆ドルへ、約83%も増加した。
より具体的に見ると、先進国で約84兆ドルから約124兆ドルへ約48%増えているのに対し、新興国では約13兆ドルから約54兆ドルへ300%以上増えた。金額で見れば依然として先進国が7割を占めているが、危機後の緩和的な金融環境が新興国におけるレバレッジの急拡大を招いたという事実は押さえておきたい。
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