PDCAより「OODA」が日本で導入しやすい理由  「宮本武蔵とキーエンス」は戦わずして勝つ

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このことからわかるのは、明るい場所で多人数が同時に観察できればさらに使用状況は改善されるということです。これが情勢判断に該当します。

そこで顕微鏡自体をケースで覆い、パソコンにつなげば、明るい部屋で複数の人が同時に観察することができるようになります。これが開発情報を受けた企画であり、意思決定にあたります。このようにして「BIOREVO」という新たな蛍光顕微鏡が開発されたのです。

同業他社がこの蛍光顕微鏡の開発で狙っていたのは、解像度向上、データ保存、操作性向上などでした。しかし、これはどこでもやっていることで、それで差別化することは難しかったのです。

キーエンスの関係者にヒアリング調査すると、彼らは、「われわれは企画段階ですでに勝つべくして勝つことができている」と言っていました。つまり、同業他社と比べて、開発情報という点で優位に立ち、それに応じた製品開発の意思決定を迅速に行う組織的な仕組みがあるため、確実に勝つことができるのです。

OODAは日本企業に導入しやすい

PDCAが主流になっている日本企業では、いままでOODAが注目されてきませんでした。しかし、その源泉は、宮本武蔵によって主張されていたことなのです。実際、OODAは日本企業の伝統的な文化と整合的です。例えば、あうんの呼吸、仲間意識などはOODAを成功裡に回すための必須条件になります。OODAは、日本企業こそ導入しやすいのではないでしょうか。

私は、OODAという言葉ではなく、PDCAという言葉にこだわりたいのであれば、それはそれでよいと思っています。PDCAであれOODAであれ、経営課題に果敢にチャレンジしていくことができるのなら、どちらの言葉を選ぼうが問題はないのです。ただし、観察、情勢判断、意思決定、行動を速く回すというOODAの長所を生かす工夫ができていれば、という留保条件をつけたいと思います。

問題は言葉ではありません。大切なのは、行動であり、それを支える仕組みです。OODAに含まれた行動、ひいては宮本武蔵が『五輪書』で解いた機動戦を実現するための仕組みを組織的に整備していくことが、今後、ますます不確実性が増し、意思決定のスピードが求められる競争環境のなかでは重要になってくるものと思われます。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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