PDCAより「OODA」が日本で導入しやすい理由  「宮本武蔵とキーエンス」は戦わずして勝つ

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しかし、実際の相手は12歳の幼い当主、吉岡源次郎でした。武蔵は一乗寺下り松を一望できる高台から敵の動向を観察し、源次郎が油断している隙を逃さず、気づかれないように一挙に近づき、背後から斬り倒したのです。不意を突かれ慌てふためいた一門の者の何人かは、武蔵に向かっていきましたが斬られてしまい、武蔵は一目散にその場所を立ち去ったのです。

巌流島の決闘でも、武蔵はあえて約束時間よりも大幅に遅れて現れ、いらいらした小次郎に対して闘いを挑んでいます。これらの戦い方は、OODAでいう物理的・心理的な奇襲戦略です。これによって相手をパニックに陥れ、心理的に麻痺させることで優位に闘いを進めているのです。

勝負は闘う前の準備で決まる

それでは、宮本武蔵の戦略とは具体的にはどのようなものだったのでしょうか。『五輪書』のなかで、武蔵は次のように書いています。

「さらに、命がけの戦いで、一人で五人、十人ともたたかい、確実に勝利する道を知ることが、わが兵法なのである」(鎌田茂雄訳註『五輪書』(講談社学術文庫)。

つまり、確実に勝つ戦略を武蔵は心がけていたのであり、決してフェアな条件のなかで強さを競うことにはなかったのです。その戦略の要諦は、「裏をかき、機先を制す」ということです。つまり、敵が行おうとする前に、その出鼻をくじくことで優位に立つことを心がけたのです。

それが可能なのは、事前の観察があるからです。武蔵は次のように書いています。

「また一対一の戦いにあっても、敵の流派をわきまえ、相手の性質をよく見て、その人の長所短所を見わけて、敵の意表をつきまったく拍子のちがうように仕掛け、敵の調子の上下を知り、間の拍子をよく知って、先手をとってゆくことが重要である」(『五輪書』)

これは、OODAの観察および情勢判断を指しています。ただ単に観察するだけでなく、敵の長所・短所、心理的な状態を洞察することです。

特に、武蔵は敵の心理を重視します。敵が期待し、予期することと違うことを行い、意表を突き、パニックに陥らせる。実際、武蔵は相手の背後から斬りつける、約束の時間に現れないなど、敵の予想をことごとく裏切る行為に出て、心理的に優位に立ち、そのうえで勝負しているのです。

この武蔵の戦略は、まさにドイツ軍の電撃戦に相当します。電撃戦では、イギリス・フランス連合軍が、ドイツが侵入してくるだろうと予測していたフランス国境北部ではなく、難所であった南部のアルデンヌの森を戦車軍団が高速移動で越境し、北部で待機していた連合軍主力部隊の背後を攻撃して、2~3週間のうちに勝負を制してしまったのです。

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