アメリカ経済は日本が目指すべき手本なのか 「高い成長率」と「雇用の安定」はトレードオフ

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1930年代の大恐慌でケインズ経済学が生まれてから、経済の安定化政策が重要だとされるようになった。経済の好調が続いてインフレが加速する動きが見えれば、財政支出の削減・増税といった緊縮財政や金融引き締めを行って加熱を抑制してインフレの昂進を防止する。逆に、経済が不振に陥って失業が問題になれば、財政支出の増加や減税、金融緩和を行って景気を浮揚させて、失業の増加を食い止める。景気循環の動きと反対の効果を生む政策を行うわけである。

しかし、安定化政策に対しては、逆に景気変動を増幅してしまうとの批判もある。経済情勢の判断に時間がかかったり、政策の発動から効果の発現までに時間がかかるなど、最適のタイミングで最適の政策が実行できるわけではないからだ。世界では2度にわたる石油危機を通じて実施されてきた経済安定化政策が、インフレの昂進や財政赤字の慢性化などの問題を引き起こした原因だとして、裁量的な経済安定化政策や政府による民間の経済活動への介入に対する批判が強まった。

日本は第2次石油危機をうまく乗り切ったこともあって、石油危機後も財政・金融政策を活用して積極的に安定化政策を行ってきた。バブル崩壊後長期に渡って経済が低迷してきた原因の1つとして、このような政策が経済の調整を長引かせたからだという批判もある。だが、筆者は失業の発生を抑制しながら緩やかに調整を行うことに成功したと前向きに評価してよいのではないかと考えている。

「高い成長率」と「雇用の安定」はトレードオフ

2000年代に入ってから、リーマンショックのような大規模な金融危機が発生した。そのため、資本主義経済では自由な競争だけでは行きすぎが避けられず、政府による介入が不可欠だという声が再び高まった。他方で、リーマンショックの震源地だったアメリカ経済が早々に立ち直ったのに対して、巻き添えを食らって景気が悪化しただけのはずの日本や欧州経済のほうが低迷が長引いた。これには、日欧のほうが政府によるさまざまな規制によって企業の雇用調整をはじめとする民間部門の調整が遅れたからだという批判もある。 

アメリカの実質経済成長率は、リーマンショックが起こった2008年にマイナス0.1%に落ち込み、2009年にはマイナス2.5%となった。日本は2008年がマイナス1.1%、2009年がマイナス5.4%と米国を上回る落ち込みとなった。しかし、日本では失業率は2009年から2010年にかけて5%台に上昇した程度だったのに対して、米国では失業率が10%近くにまで上昇した。実質GDPの落ち込みが米国に比べて大きかった日本のほうが、はるかに雇用に対する影響が小さかったのである。

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