実さんは、家事や育児に男性が積極的に参加するのは当然だと思っていたし、精いっぱいのことをやっているつもりだった。思わず反論すると、
「うるさい! 私がやってないと思ったらやってないの! あんたは何もしてないじゃない!」(玲子さん)
と、大声で怒鳴られた。言い合いになると、最後に折れるのは、実さんだった。優しい性格の実さんは、まさに妻の下僕状態と化していた。そして、妻はそんな性格の実さんにますます増長していった。
風邪をひいても病院に行かせてもらえなかった
結婚して、数年が経った冬のある日、実さんは、風邪をひいてしまう。咳が止まらず、苦しくて、すぐに病院に行かなければと思った。家計を管理していた玲子さんに、病院に行きたいから、お金を出してほしいとお願いすると、予想外の言葉が返ってきた。
「『お前に病院代を出すのはもったいないから、病院には行かなくていい』と言われたんです。あのときは、本当に苦しくて、つらかったですね。家計は妻が管理しているので、病院にすら行けなかったんですよ。結婚生活は、まるで監獄か何か、捕らわれの身なんだというのを実感しました」
実さんは、結局病院に行くことすらかなわず、3日3晩寝込んでしまった。
そのやり取り以降、実さんは、風邪をひいても、病院に行くことはなくなった。
ある日、玲子さんは突然、熱に浮かれたように、マンションが欲しいと言い出した。玲子さんが目を付けたのは、立地もよく、一等地にたたずむ新築のマンションだった。結婚してから夫婦で貯めたお金はほとんどなかったため、玲子さんに言われるままに、実さんが独身時代に貯め、結婚後も残していた貯金1000万円を元手に3LDKのマンションを4000万円で購入した。
しかし、いざ住んでみると、玲子さんは、狭い狭いとしきりに不平不満を募らせるようになる。立地を優先して選んだにもかかわらず、部屋の狭さにイライラし始めたのだ。それは、まるで昨日まで大事にしていたおもちゃを気まぐれに放り出す子どもとまるで同じだった。
そして、その怒りの矛先は、すべて実さんに向いた。
「こんな狭い部屋に4000万円近くも払うハメになったじゃない! 全部お前のせいだ!」
マンション購入も立地も広さもすべて、妻が主導で決めたことだった。しかし、何を言ってもお前が悪いと罵倒されてしまう。
「何か言っても、すぐに逆切れするから、次第に反論する気力がなくなって、無気力状態になってしまうんです。そのうち、自分が何のために生きているのかわからなくなり、精神的にどんどん病んでいきました」
ある日、実さんが貯金の残高を見ると、残高は数千円しかなかった。玲子さんを信用して家計の管理を任せていた実さんはあ然とした。
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