「搭乗しなかった」客を航空会社が訴えた事情 ルフトハンザドイツが客に損害賠償を請求

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この男性も最後にオスロまで飛び、そこからドイツに戻れば何も問題は生じなかった。だが、せっかく自分の住んでいる国に戻ってきたのだからいちいち北欧まで行くのは時間とお金のロスだと考えたのであろう。

例えばソウル→東京→ニューヨーク→東京と飛んだ大阪在住の人が最後の東京→ソウルを放棄するのと同様だ。このように途中から放棄する場合には、それを取り締る術が事実上ないに等しかった。

航空会社が「飛び降り」に関連して訴訟を行ったケースは今回が初めてではない。2014年にユナイテッド航空と大手オンライン旅行会社のオービッツが航空運賃検索サイトのスキップラグドの運営者であるニューヨーク在住の22歳(当時)の青年、Aktarer Zaman氏を訴訟したことが話題となった。

約830万円とサイト閉鎖を求められた

これはスキップラグドが「飛び降り」によって安くなる運賃を紹介していたからというもの。月に100万アクセスに及んでいたサイトの閉鎖と7万5000ドル(約830万円)の損害賠償を求めるものだった。だが、後にオービッツは和解し、ユナイテッド航空についても、訴えが行われたのがイリノイ州(シカゴにユナイテッド航空の本社がある)であるのに対して、スキップラグドがニューヨークを拠点としていることなどから却下された。

今回のルフトハンザ ドイツ航空の件は、一個人がただ乗り継ぎの空港で降りただけなので、サイト運営者への訴訟とは次元の違う話といえるだろう。なお、この男性が「飛び降り」を繰り返し行ったかどうかは現地の報道を見る限り明らかではない。

とはいえ、今回のケースはかなり珍しく、今後もほかの航空会社が同様のケースで罰金を課そうとする可能性は現時点では高くない。そもそも旅行の途中で体調が悪化するなど、不測の事態によって搭乗できないこともありえる。

ただし、1、2回ならともかく、こうした利用法が常態化していると、訴訟には至らなくても、マイレージの差し押さえや会員資格の剥奪などが行われる可能性がないとまでは言い切れない。いずれにせよ、利益の最大化を追求する航空会社と、その裏をかいて航空券代を節約したい顧客の利害が対立する以上、この問題が今後も続いていくことだけはまちがいない。

橋賀 秀紀 トラベルジャーナリスト

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はしが・ひでき / Hideki Hashiga

東京都出身の40代。早稲田大学卒業。「3日休めれば海外」というルールを定め、ほぼ月1回の頻度で海外旅行に出かける。訪問国は121カ国。著書に『エアライン戦争』(宝島社)など。『週刊東洋経済』で「サラリーマン弾丸紀行」を連載した。Yahoo!ニュース 公式コメンテーター。記事の内容についてのお問い合わせ・取材の依頼などについてはこちらまで。

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