伊藤忠vsデサント、断絶を招いた根本原因 デサントは「世論を味方に」しか打つ手なし

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1月末に伊藤忠商事はデサントへの出資比率を引き上げるべくTOBを実施すると発表した(左の撮影:梅谷秀司、右は記者撮影)

「(デサントの)ガバナンスに関してかなりの懸念を持っている」。伊藤忠商事の鉢村剛CFO(最高財務責任者)は2月5日の決算会見でそう述べた。

伊藤忠とスポーツウェア大手デサントとの不協和音が止まらない。伊藤忠は1月31日、デサントへの出資比率を現在の30.44%から最大40%に引き上げるべく、TOB(株式公開買い付け)を行うと発表した。買い増しが順調に進めば、伊藤忠は株主総会で拒否権を発動できる3分の1超を確保することになる。

不信感を強めたのは2011年ごろ

伊藤忠とデサントの付き合いは約50年にのぼる。1980年代からデサントの筆頭株主となった伊藤忠は、1984年と1998年の2度にわたる経営難の際、デサントを支援してきた。その両社が今、仲たがいするのはなぜか。その経緯を時系列で追うと、両者の断絶をもたらした事件の数々がみえてきた。

デサントが伊藤忠に対する不信感を強めたのは2011年ごろからだ。同年、デサントが伊藤忠から仕入れる額を年間100億円から150億円へ引き上げるよう、伊藤忠出身の社長が社内に呼び掛けた。翌2012年にはこの150億円の目標値を達成するために、「通し」や「付け替え」が、伊藤忠からデサントへ要請された。

通しとは、デサントが伊藤忠以外の商社から仕入れている取引について、伊藤忠が間に入ったような形に伝票上変更すること。付け替えとは、デサントがほかの商社から仕入れている取引を、伊藤忠に代わって取引すること。これらはデサントの仕入れ政策をゆがめ、商品力を落としかねず、「到底受け入れ困難なものだった」(デサントの公表資料より)。

大株主としての立場を利用して、商社としてのビジネスの拡大を図る伊藤忠の姿勢に、デサント社内での反発は高まった。その空気のもと、2013年2月には創業家出身の石本雅敏氏のデサント社長就任が決まった。この人事を決めた取締役会に際しては、事前に伊藤忠側への根回しはなかったという。

デサントによれば、石本社長の就任と同時に、一連の経緯を社内委員会で調査し、結果をまとめた文書を伊藤忠に届けた。しかし、その後も両者の間でこの問題をめぐる対話は深まらなかった。長年にわたる信頼関係は傷付いたまま、放置されていたのである。伊藤忠はデサントからの問題提起に応えるわけでも、信頼関係回復のためのアクションをとるわけでもなかった。この後、数年にわたって伊藤忠が沈黙を続けた理由は、大きな謎である。

そして昨2018年、両者の相互不信を決定的なものとする展開があった。6月に決算報告に訪れたデサントの石本社長と伊藤忠・岡藤正広会長CEOとの面談で両者のスタンスの違いが明らかになり、伊藤忠がついに実力行使を決断。資本の論理でデサントを押さえ込むべく動いたのだ。

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