伊藤忠vsデサント、断絶を招いた根本原因 デサントは「世論を味方に」しか打つ手なし
2月8日には、デサントのホームページに、デサント労働組合執行部が伊藤忠のTOBに対して反対する声明が掲載された。組合は声明で、「当社の価値を支える労使の信頼関係や雇用、労働条件へ重大な影響を及ぼしかねない本TOBに対して、受け入れることはできない。今後両社の経営陣が敵対的ではなく、建設的な協議のもと平和的解決に導かれることを強く望みます」としている。
ただ、伊藤忠がTOBを中止する可能性は低い。伊藤忠はなぜデサントから手を引かず、ここまでこだわるのか。岡藤会長CEOが繊維カンパニー出身であることが影響しているのではないかと見る向きは少なくない。伊藤忠側には、今日のデサントをつくりあげてきたのは伊藤忠だとの思いもあるだろう。
伊藤忠の2018年度純利益は5000億円が見込まれる。デサントの2018年度の純利益は65億円の計画。伊藤忠の株式持ち分に応じた純利益への貢献は20億円程度でしかない。1株当たり2800円の買付価格を設定したTOBには約200億円を投じることになる。直近の株価に約50%のプレミアムを乗せた価格だ。
追加リターンを得られるかは未知数
割に合わないのではないかとの質問に伊藤忠の鉢村CFOは「デサントは高い商品力を持っており、従業員のレベルも高い」とし、「デサントの持っている潜在力をフルに発揮できる環境、体制であるべきだ」と説明する。
低迷するアパレル業界にあってデサントが手掛けるスポーツ分野は「伸びしろがある領域」だ。2020年の東京五輪・パラリンピックなどスポーツイベントが控えているだけでなく、中国の旺盛な需要を取り込む余地は大きい。とはいえ、約200億円の投資を上回る追加リターンを得られるかは未知数だ。
伊藤忠は4月1日付で繊維カンパニープレジデントの小関秀一専務を理事とする人事を発表した。デサントへ小関氏を送り込む布石とみられる。デサントの経営陣刷新へ向けて準備を着々と進めているようだ。伊藤忠にとってもこれだけの騒動となったデサントがまるで収益に貢献しないということになれば、今度は伊藤忠の株主から経営責任を追及されかねない。TOBの期限は3月14日。あと1カ月ある。その間に新たな展開もありうる。伊藤忠とデサントのなりふり構わぬ対立はどう決着するのか。
伊藤忠のTOBに対し、ほとんど打つ手がないデサントが頼みの綱とするのは世論だ。世論を味方につけるにはデサントの主張の正当性や、伊藤忠が自社の利益を優先しデサントの企業価値を損ねる可能性が高いことを丁寧に説明する必要がある。東洋経済はこのたびデサントの石本社長を直撃、その胸中を吐露してもらった。
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