医者の余命告知を真に受けてはいけない理由 人の余命は断定的に言えるものではない

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もう少しわかりやすく解説しましょう。地震や火山の噴火の予想はかなり難しいですね。この予想のあたらなさが、心筋梗塞や不整脈、脳卒中や肺炎などの死亡予測に相当するものと考えてください。

地震予測もあと何年以内に何%の確率でという予測であれば、ある程度科学的で信頼できるものですが、何日後とか何カ月後に起きることが予測できるかといえば、不可能なのです。

徐々に病気が進行するがんや慢性呼吸不全や慢性心不全、肝硬変などでは、突然訪れる心臓病や脳卒中に比べて、もう少し予測があたるかもしれません。しかし、それでも、天気予報でいえば台風の進路予測ほどにはあたりません。台風でさえ、迷走することがあり、あたることもあたらないこともあるのです。

余命を短めに伝える

医師による余命の予測は、そもそもあたらないものですが、余命を聞かされたときに、気をつけておくべきことがもう1つあります。それは、医師は予測よりも短めに伝えがちということです。

余命の予測を短く伝えて、患者さんがそれより長生きされれば問題は起きませんが、長く伝えて短期間で亡くなられてしまうと、患者さんにも遺族にも恨まれることになります。あるいは、余命を短めに伝えておいたほうが医師から奨める治療に早く同意するからという要因も無視できません。そのような背景もあって、医師は自分の予測よりも短く伝えることになりがちです。

患者さんや家族に余命を尋ねられたときの医師の思考を考えてみたいと思います。聞かれたとき、医師は正直に「解りません」と答えることは難しいのです。ある種の勇気が必要となります。なぜなら、「この医者は余命も解らないのか」と医師としての経験や技量が疑われてしまうからです。

それを避けようと、医師は勘をはたらかせて「あと何カ月」などと答えてしまいます。どちらかと言えば、医師の自己防御的な余命の告知です。

一方、患者さんが聞いてもいないのに、「このままで放っておけば、あと3カ月の命です。手術をすれば……」といったように余命を伝えようとする医師もいます。医師が自分の勧める治療に少しでも早く持ち込みたいという気持ちが強ければ、いわゆる「おどしの医療」として余命を短く伝えてしまうことになります。主導権をにぎって患者に早く決断してもらいたいからです。

患者さんは即断をせず、冷静になる時間をとり、できる限りの情報を集め、自分が何を大切にするのかという本心を確かめ、信頼できるほかの人とも相談したうえで決めたほうがよいでしょう。

断定的に死ぬ期日を伝える余命告知はあたらないし、聞かないようにしたほうがよいのです。もし、乱暴な口調で医師に余命を告げられたとしても、信じ込まないことです。余命なんて、実は誰にも解らないことなのですから。

AIを使って、病気の予後を予測計算させるという試みは始まっており、今後確率的な精度は多少上がってくるでしょうが、それでも断定的な余命の予測はできないものと考えたほうがよいでしょう。

加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

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かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

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