天皇の外国語訳に違和感があるこれだけの理由 本当はエンペラーともカイザーとも違う

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ヨーロッパでは、ローマ帝国時代から優秀な者を養子に迎え、帝位を引き継がせていました。また、実力者が武力闘争やクーデターによって皇帝になることもありました。近世・近代以降、先の3つの皇帝家が帝位を独占的に世襲しますが、それまでは選挙や実力争いで帝位が継承されていたのです。

「天皇」は「tennou」と言い表すほかない

前述のように、「天皇」の訳には、英語の「エンペラー」に代表される役割者称号が当てられる場合と、ドイツ語の「カイザー」に代表される後継者称号が当てられる場合があります。

「エンペラー」系統の例として、スペイン語の「エンペラドール(emperador)」、フランス語の「アンペラール(empereur)」、イタリア語の「インペラトーレ(imperatore)」などがあります。

アラビア語の「イムベラートール」も「エンペラー」の系統に属します。アラビア語圏の皇帝に相当する最高権力者はスルタンでした。「スルタン」はアラビア語で「権威」を意味します。オスマン帝国などの中東では、ヨーロッパの皇帝の訳語として、「スルタン」を当てることはなく、ヨーロッパ由来の「イムベラートール」を当てました。それが現在、「天皇」にも当てられるわけです。彼らにとって、スルタンは唯一者であり、たとえ他国の皇帝がスルタンと同格であったとしても、「スルタン」と呼ばれることはなかったのです。

一方、「カイザー」系統の例として、オランダ語の「カイザラ(keizer)」、スウェーデン語の「シェイサレ(kejsare)」をはじめとする北欧ノルウェー語やデンマーク語があります。

「カイザー」系統のこれらの言語を使う国々、つまり、ドイツ語系の国々では、天皇は「カエサル」と呼ばれているのです。

われわれ日本人にとってはやはり違和感があります。「君臨者」を意味する「エンペラー」の訳語が当てられるのは理解できても、「カエサル」と呼ばれるのはどうかなと思ってしまいます。

「天皇」の称号はその由来や歴史的背景からしても、いわゆる「皇帝」とも異なります。「天皇」に「エンペラー」や「カイザー」の訳語が当てられることが近代以降、一般化しており、「世界に唯一残るエンペラー」と評されることは、われわれ日本人として誇らしいことですが、「天皇」は本来、「tennou」としか言い表せません。

かつて、オスマン帝国の皇帝であったスルタンをドイツ語圏で「カイザー」と呼ぶことはなく、そのまま「スルタン(sultan)」と呼んでいました。これと同じく、天皇を「tennou」と呼んだとしてもおかしいことではありません。

宇山 卓栄 著作家

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うやま・たくえい / Takuei Uyama

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家に。各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。著書に『朝鮮属国史 中国が支配した2000年』、『韓国暴政史 「文在寅」現象を生む民族と社会』、『経済で読み解く世界史』(以上、扶桑社)、『民族で読み解く世界史』、『王室で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)、『世界史で読み解く天皇ブランド』(悟空出版)、『民族と文明で読み解く大アジア史』(講談社)など、その他著書多数。

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