「あなたの申し出に対してはこうだ」といった上から目線ではなくて、「本当に足を運んでいただいてありがとうございました」という気持ちになる、いわば「営業マインド」を持ってください、とお願いしたわけです。
行政にはなじみのない考え方だったので、当初は職員も困惑したようですが、徐々に浸透していきました。区役所の窓口調査では、来庁された方の満足度が毎年上がり、昨年は96.6%に達しました。これは民間企業でも出せない数字ではないでしょうか。
市民の方が市政で身近に感じる場所は区役所です。その区役所で、市民の方は職員とじかに会うことになります。その職員たちが、明るく、親切で、おもてなし精神にあふれ、共感を持って寄り添えば、市政に対する信頼につながります。
本気の思いはメールでは伝わらない
――市政に「営業マインド」を持ち込むというのは、自動車販売のセールス担当者としての経験がある林市長ならではの発想です。やはり民間で経営者を歴任された経験も市政に生かされているのでしょうか。
(先程、保育改革の話題で)「人の力が大きい」「携わる人が本気かどうか」ということを話しましたが、これは実は、会社の経営と同じなのです。
たとえば、自動車販売会社の経営者として営業所に出向いた際に、現場の営業員たちを励ますじゃないですか。そのとき、一生懸命に褒めるのです。そして、「こうやってやりましょう」と、じかに言葉を伝えます。そうすれば、みんなやる気になりますよね。ただ、やみくもに「売れ売れ」「この店は目標を達成していない、どうなっているんだ」と、そう言っても効果はありません。
「どういうところに売っているのですか」などときめ細かく聞いて、「なるほどね、そういうところがうまくいっていないんだ。では、そこを本部で支援します」と対応するのです。このようにトップが現場に行って、しっかり話を聞いて、細かく対応するからこそ、社員はやる気になるのです。
公務員だって同じですよ。公務員はよく批判の対象に挙げられますが、「公務員は悪い」という空気の中で仕事をしていれば、現場のモチベーションは低下してしまいます。公務員だってマシンじゃない。だから、私は公務員にも寄り添って話を聞きます。
時間があれば、一人ひとりに声をかける。「区民の方に、どうしたらもっと理解していただけるのか」と、みんなで知恵を絞って考えます。私はそうとうな現場主義者です。
市長になってからの1年目は、職員との人間関係を築くことに力を注ぎました。半分はそれに使っていましたね。
ちょくちょく声をかけます。エレベーターで会うと、「寒くなってきたね。そのセーター温かそうね」とか、こちらから積極的に話しかけます。
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