乙武洋匡が見たルワンダ「虐殺から24年後」の今 コミュニティで共存する加害者と被害者
「できるわけがない」
多くの人はそう答えるに違いない。だが、ルワンダでは多くの人々が土地に根ざした暮らしを重ねてきており、また経済的状況からほかの土地に移住することも難しい。結果として、被害者と加害者が同じコミュニティの中で生活を送ることを余儀なくされているのだ。もちろん、そこには筆舌に尽くしがたい苦悩があることは容易に想像できる。
被害者と加害者、和解への道
しかし、そうした彼らの苦しみに寄り添い、長年にわたってサポートを続けてきた人々がいる。
フィルバート・カリサ氏は、ジェノサイドが起こった2年後の1996年に、被害者と加害者の間に横たわる深い溝に少しでも橋を渡していこうと、NPO「REACH」を立ち上げた。「REACH」とは、「Reconciliation Evangelism And Christian Healing」の頭文字。日本語に訳すと、「和解の福音宣教とクリスチャンの癒やし」というやけに堅苦しい表現になってしまうが、ジェノサイドによって断絶されてしまった被害者と加害者の間に和解を促すためのクリスチャンによる団体だ。
首都・キガリにあるREACHのオフィスを訪ねると、カリサ氏は50代とは思えないほど若々しい笑顔で出迎えてくれた。
「最初の数年は、誰からも笑われていました。彼らを和解させるなんて、そんなの無理に決まってるだろう、と」
当時は、ジェノサイド直後。周囲の冷笑も受け止めるしかなかった。それでもカリサ氏は「神の導きだから」と情熱を絶やさず、投げ出すことをしなかった。
「誰もが無理だと考えていた両者の和解。それを実現するには、主に2つのことが必要でした。ひとつは、加害者側が、自分たちがしてきたことがどんなことであり、それが相手の人生にどんな影響を与えてしまったのかという事実にしっかりと向き合い、心から反省をすること。やはり彼らも罪悪感がありますから、本来であればジェノサイドのことは振り返りたくない。そこにはあまり触れることなく生活していきたい。でも、それでは和解などすることができないのです」
もうひとつは、被害者側への働きかけ。
「彼らも隣人たちともう一度、共に生活していかなければならないと頭ではわかっているんです。でも、やはり彼らへの恐れや憎しみはそう簡単に消えるものではない。そうした感情に対して、少しずつ時間をかけて癒やし、解きほぐし、許しへと導いていく。それが、私たちのもうひとつの大切な使命です」
言うは易し。だが、それを実現していくまでの道のりは、決して平坦なものではない。加害者による反省と謝罪。被害者による許し。和解のためにどうしてもこれらのハードルを越えていく必要がある。
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