乙武洋匡が見たルワンダ「虐殺から24年後」の今 コミュニティで共存する加害者と被害者

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REACHでは、加害者側、被害者側それぞれにワークショップを開き、彼らの感情の変化を促す活動を続ける1人の日本人と出会った。

カリサ氏の50代とは思えない若々しい笑顔

「カズはとても力になってくれました。彼はルワンダの人々の気持ちにとても真摯に向き合い、どんなワークショップにすればいいのかと、その内容を一生懸命に考えてくれたんです」

現在はルワンダ南部にあるプロテスタント人文・社会科学大学で教える佐々木和之氏は、2000年に初めてルワンダを訪問。ジェノサイドが残した深い傷跡に衝撃を受けた。その後、2005年から10年以上にわたってREACHと連携し、「癒やしと和解」プロジェクトの構築に努めてきた。

「国民すべてが被害者」

「ワークショップやセミナーの内容を考えるにあたって、まず参考にしたのは南アフリカの例です。アパルトヘイト時代の人権侵害やその賠償問題などを解決するために設置された真実和解委員会には参考にすべきところが大いにありました。ですが、やはり南アフリカとルワンダでは背景にある事情や政治的状況も異なります。ですから、やはりルワンダで独自に考えていかなければならない部分が大きかった」

佐々木氏が和解へのプロセスで重視したのは、小グループでのディスカッション。「フツ族とツチ族」「加害者と被害者」という大きな枠組みではどうしても和解へのハードルが高くなってしまうが、あくまで個人としての経験や感情を伝え合う場を設けていくと、そこに共感が生まれやすくなるのだという。

「なかには、ツチ族からの報復でご主人を殺されたフツ族の女性もいたりする。また、フツ族のなかにも穏健派というのがいて、当時、彼らもまたフツ族の過激派から襲撃され、殺されたりもしていた。そういうことが被害者側にもシェアされると、一概に『加害者と被害者』という対立構図で描ける問題ではなく、あのジェノサイドによって国民の誰もが傷ついているのだということが理解されるようになっていくんです」

長年にわたってルワンダの人々に寄り添う佐々木和之氏

もうひとつ、佐々木氏が苦心しながらも進めてきたのが、「償いのプロジェクト」。ジェノサイドにおける加害者側が、被害者側のために住居を建設するプロジェクトだ。もちろん、カリサ氏も言及しているように、最も大切なことは加害者が自分たちのしてきたことと真摯に向き合い、心から悔い、謝罪をすること。だが、その先に「被害者のために何ができるのか」を形で表すことも、和解に向けては確かな効果を発揮するのだという。

「加害者が謝罪の言葉を口にし、被害者も表面上は許していたものの、心の奥底では許せずにいたということも少なくないんです。ところが、1年、2年と自分の家を造るために汗を流す姿を見て、少しずつ心のわだかまりが和らいでいく。そして、家が完成したときに、ようやく心から許せるようになったということもあるんですね」

次ページはじめは両民族間に亀裂があった
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