乙武洋匡が見たルワンダ「虐殺から24年後」の今 コミュニティで共存する加害者と被害者
はたして、女性たちはアートクラフトを通じて少しずつ距離を縮めていき、やがて日常的な会話をするようになり、さらには“同僚”から“友人”と呼べるまでの関係性を築いていった。そして彼女たちの関係性は、やがてオーガスティン牧師を驚かせるほどのものへ発展していく。
「フツ族の女性たちは、時折、刑務所に収監されている夫に会いに行くのですが、この活動を通して仲良くなったツチ族の女性たちがそこについていったりするんです。本来であれば、自分の家族を奪った相手ですから複雑な思いがあって当然なのですが、あくまで友人の付き添いとして刑務所に同行する。これには驚きました」
こうして女性たちが良好な関係を築いていくなかで、2003年ごろから加害者側の男性たちが刑期を終えて、村に戻ってくるようになった。せっかく関係性を築くことができた女性たちに再び亀裂が生じることはないのか。実際に凶行に及んだ男性たちを、凄惨な被害に遭った人々は許すことができるのか。和解プロジェクトは、新たな局面を迎えることとなった。
確実に成果を挙げたプロジェクト
「もちろん、課題は多くありました。ただ結論から言えば、それまで女性同士で関係を構築してきたことが大きくプラスに働いたのです。先にも述べたように、被害者側の女性たちが直接、刑務所に面会に行っていたことも大きかったですし、また被害者側に友人ができたことで、妻が夫に対して反省と謝罪を促すというようなこともあったようです」
また、刑期を終えて村に戻る男性たちに対し、佐々木氏らは複数回にわたってワークショップを行い、自らの過去としっかり向き合う機会を設けるようにした。こうした丁寧な積み重ねにより、男性たちが戻ってからも、村に大きな混乱が生じることはなかったという。
手工芸組合が女性たちの関係性を構築するのに大きく役立ったように、現在では2013年に結成された養豚組合が、今度は男性も含めて双方が一緒に作業する場を提供している。そこでは、暴行を受けた後遺症でうまく体を動かせないツチ族の女性を、フツ族の男性が積極的にサポートする姿も日常的に見られるという。
「しかし、心からの和解というものは、そう簡単に実現できるものではありません。それは24年が経った今でも、です。それでも、私たちはジェノサイドが人々の心に残した深い傷を少しでも癒やし、回復させることができるように、できるかぎりのことをしていくつもりです」
どんなに頑張っても動かすことができるかわからない巨大な岩を、それでも死力を尽くして押し続ける――。そんな不屈の精神を、オーガスティン牧師の言葉は感じさせてくれた。
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