「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由

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3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている。

3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている。

3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている。4分の1が「ワクチンを接種すると自閉症になる」「魔女は存在する」と信じている。

聖書は主に伝説と寓話であると思っている人は、5人に1人しかいない。

著者のカート・アンダーセンは、この現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質を、建国以前のプロテスタントの入植までさかのぼっている。

「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化

もっとも、この気質が本格的に花開いたのは、1960年代から1970年代である。

リベラル派(左派)は、この時代の若者文化を理想視し、いまだにその反体制的な価値観を信じている。そして、保守派(右派)のトランプ政権が振りまく「ポスト真実」に怒りの声を上げている。

しかし、1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根であることをアンダーセンは暴いていく。

「(1960年代の平等の拡大によって)一人ひとり誰もが自由に、自分の好きなことを信じ、好きなものになれるようになった。こうした考え方を突き詰めていけば、競合するあらゆる考えを否定することになる。もちろん個人主義は、アメリカが生まれ、幸福の追求や自由が解き放たれたときから存在する。以前から、『夢を信じろ』『権威を疑え』『好きなことをしろ』『自分だけの真実を見つけろ』と言われてきた。だがアメリカでは1960年代以降、法律が一人ひとりを同一に扱うだけでなく、一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しいというところまで、平等の意味が拡大された。絶対的な個人の自由を容認するのがわが国の文化の原則となり、国民の心理として内面化された。自分が信じていることは正しいと思っているのであれば、それは正しい。こうして個人主義は、自己中心主義となって蔓延した」(『ファンタジーランド 上』、p314~315)

権威を疑い、体制に逆らい、自由と平等を絶対視した結果、リベラル派は「一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しい」という相対主義に行きついた。

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