「おっさんを愛でるドラマ」が人気を博す事情 「日本のおっさん像」を変えた松重豊の功績

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昔のドラマでは、破天荒または傍若無人の強いおっさんや、アウトローなおっさんをどこかで求めていたような気もするし、実際そういうおっさんがウケてきた。現代社会の閉塞感を打破するヒーローみたいな感じかな。

ところが、今はそのニーズがない。破天荒は迷惑だし、金や腕力にも憧れない。スマホでそこそこ解決できるし、経験豊かでも威圧的なおっさんから学ぶことは何もない。誰もおっさんに期待しなくなったからだ。

男の沽券、父の威厳、先輩の教えを振りかざすよりも、つねにフラットなほうが慕われる。女性や子ども、若者を下に見ないおっさんも好ましい。愚痴や悪口は言う小心者だが、根に持たず。そんな、どこにでもいそうな肝のちっさいおっさんのほうがリアリティーも親近感もある。強いおっさんはもはや不要。おっさんのダウンサイジング。そういう時代になったのだ。

おっさんに課せられた新たな役割

で、今。おっさんにはさらなる付加価値が求められている。恋愛ドラマが激減した中で、変化球の「おっさんずラブ」(テレ朝)が大いにウケた。つまり、「おっさん同士の恋愛または疑似恋愛、思慕の情、うれし恥ずかし共同生活」などの要素が求められ始めたのだ。

実はこの発端も、松重豊ではないかと私は疑っている。2016年に放送した「世にも奇妙な物語 ‘16 春の特別編」(フジ)で、「クイズのおっさん」という作品があった。

主人公はクイズオタクの高橋一生。うだつの上がらない営業マンだが、クイズ番組に出演して優勝。その賞品がクイズ1年分。届いたのは、やたらとクイズを出してくる“クイズのおっさん”こと松重豊だった。2人は1年間、奇妙な同棲生活を送るも、次第に情が芽生え……という内容。ラストシーンで胸がキュンとしたことを今でも覚えている。

今期展開されている、おっさんたちの仲睦まじい和気あいあいも、共同生活コメディーも、恋に似た感情の胸キュンドラマも、すべては松重豊から。松重こそおっさんブームの源流ではないか、と勝手に思い込んでいる。

ま、現代社会の実情を考えると「人畜無害のおっさんはクレームが付きにくい」という、制作側の苦肉の策というか逃げの一手かもしれないが。

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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