「おっさんを愛でるドラマ」が人気を博す事情 「日本のおっさん像」を変えた松重豊の功績
「あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜」(フジ・2008年)だが、誰もが目をそらす結果に終わってしまった。キャリアが長く、手練れのおっさん俳優の実力や持ち味を活かしきれず、公開処刑のような空気感に。当時はアイドル主演ドラマが腐るほどあり、俳優の実力よりも事務所の力が勝っていた時代(今もある意味で変わらないけれど)。たぶん、視聴者にも「おっさんを愛でる寛容さ」は育っていなかった。
その後も、おっさん冬の時代が続く。特に多かったのは、「元トレンディー俳優主演作の惨敗」だ。トレンディーというとかなり古いので、「ドラマ黄金期俳優」が正しいかもしれない。強いて名前を挙げるならば、柳葉敏郎、陣内孝則、江口洋介、織田裕二、唐沢寿明あたりだ。シリアスな2枚目を演じれば「劣化」と言われ、コミカルな破天荒おっさんを演じれば「痛い」と言われ、重厚または熱い役を演じても「なんか違う」と言われる。
1980~1990年代にキラキラと輝いていた彼らの姿が色濃く記憶に残っているだけに、違和感を覚えてしまうのだろう。彼らに罪はない。むしろ視聴者のほうが、おっさんを受け入れる心の余裕がなかったとも言える。
では、いつ頃からおっさんが受け入れられるようになったのか。
松重豊が「日本のおっさん像」を変えた
流れを変えたのは、2012年から始まった「孤独のグルメ」(テレ東)ではないか。主演の松重豊がただ食べるだけ。心の声は女子中学生のように姦(かしま)しい。おっさんの専売特許である「うんちく」「権威」「威厳」はまったくなし。
時には女性でにぎわう店に入り、ひっそりとスイーツを食べることもいとわず。社畜でも公務員でもなく、国家資格者でもない。独身・自営業だが卑下することはなく、色恋沙汰で狂うこともなく、まじめに働き、食欲の赴くままに食べる。特殊な能力もなく、トラブルや事件を解決するわけでもない。自由で穏やかで人畜無害なおっさんだった。
コワモテ・高身長で反社会的勢力の役を演じることが多かった松重豊が、のびやかに演じたラブリーなおっさんは好感が持てた。こういうおっさんならば、ドラマで観たいと思わせた。女性だけでなく、男性からも支持を得た。すでにシーズン7に到達した、人気おっさんドラマでもある。
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