こんまりの片づけ番組が日本発ではない理由 ネットフリックスに学ばねば取り残される

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筆者は、この番組を通じて描かれているアメリカの家庭にモノが多すぎる実態に驚いた。洋服にしても、ガレージのガラクタにしてもとにかくモノが多い。クリスマスのグッズが好きだという変わった人も登場して、のぞき見要素もあり、思わず引き込まれる。

放送作家という職業柄かもしれないが、この番組が全世界で大ヒットしているコンテンツを生み出したおひざ元の日本発ではなく、アメリカのネットフリックスで制作されて、日本のみならず全世界に配信されていることに驚きとともに、残念な気持ちがある。近藤麻理恵さんがターゲットの自宅に行って、片づけの指導をするという番組内容は、アメリカの番組制作会社ではなく、別に日本のテレビ局や番組制作会社が作って、日本のテレビで放送したり、日本発の有料動画配信サービスにのせたりできた可能性もあっただろう。

もちろん、近藤さんが、日本のテレビ番組に単発で登場したことは幾度もあり筆者も見たことがある。だが、僕をはじめとする日本のテレビマンや番組制作に関わる人たちは、8本連続のドキュメンタリーで、近藤さんを取り上げようとは思わなかった。

日本では作れない事情

放送作家の筆者の立場からそのあたりを分析してみると、日本では作れない事情が4つほど考えられる。

① 企画が直球すぎて却下されてしまう

「KonMari〜人生がときめく片づけの魔法~」を見て感じたのは、ド直球で余分な演出がないから見ていて新鮮ということだ。シンプルで見やすい。ネットフリックスのほかのドキュメンタリーを見ていても言えることだが、アメリカの番組はいたってシンプルだ。多民族国家なのも影響しているのかもしれない。

日本のテレビ番組の企画は複雑だ。普通に近藤麻理恵さんが一般の家庭の片づけを指導するという企画書を書いて提出しても、「企画として成り立っていない」ということで却下されるだろう。

お片づけを通じて、ターゲットの人となりや人生模様を垣間見るのは実に面白い。夫婦関係、親子関係なども浮き彫りにされる。それは撮影してみなければわからない。「やってみなければわからない」企画を局に提案しても通らないだろう。「演出」がないド直球の企画には恐怖があり、企画者としても提案しにくい。

②ターゲットを素人にできない

アニメを除いて、日本の地上波テレビ番組において、芸能人タレント、もしくはアナウンサーが出演しない番組はほぼ皆無だ。もちろん、NHKの場合はまれに違うケースもあるが、民放なら勇気が必要だ。

もし、筆者がこの企画を通そうとしたら、スタジオを開いて、有名タレントを招き、その方の自宅のお片づけを描く物語にしてしまうだろう。「それでは○○さんのお宅がどうなるのでしょうか?」とVTRを振ってしまう。企画が複雑になり、足し算の演出が増えてしまう。

日本のテレビ番組の作り手には、最初から「素人だけはつまらない」という固定観念がある。物語を盛り上げてくれる芸能人に頼ってしまう傾向が強い。NHKの「ブラタモリ」や「鶴瓶の家族に乾杯」のようにプロの芸能人が素人を転がすから面白いと思っているフシがある。大きな反省点だ。近藤さんのようなタレントでない人が主人公でも、素直に面白さは出ている。

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