「自分は凡庸」と思う女性こそ異動すべき理由 20代から自分の希望を主張しすぎるのは損だ

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こう言うと「なんて古い奴だ」「それは古き日本的人材養成システム華やかなりし頃の話」「今は若い時から自分の強み、個性を発揮する時代だ」と反論されるかもしれません。

気が進まない異動を重ねるより、転職するか起業したほうがよいという考え方もあるでしょう。確かに周囲を見渡すと、現在成功している女性の多くは、自分でビジネスを立ち上げて発展させてきた起業家や外資系企業に転職して成功した方で、組織の中で異動を重ねて昇進してきたような人はあまりいません。

もちろん今後もエネルギーと才能のある人は起業・創業の道を選ぶのもすばらしいことです。しかし圧倒的多くの女性は組織の中で雇われて働きながら経験を積み、視野を広め、スキルを磨いて勤続しています。起業を奨励し支援する仕組みが整っているアメリカでも大多数の人は組織の中で働いています。日本の大多数の働く女性には、組織の中で力をつけ、自分を育てる手段として異動を前向きに受け止め、力を養うキャリア設計が現実的です。

企業側の女性雇用に対する考えも変化しつつある

私は大学運営に携わっており、大学として人材養成に努めていますが、やはり本当に力がつくのは社会に出て、現場での仕事を通じてです。大学で基礎を学び、そのうえで実務をすることで、自分の力がつきます。初めから自分の専門はこれと決めつけず、ぜひいろいろなタイプの仕事に就いてください。そのなかから本当に自分に向いていること、できることがわかってきます。

大企業の中には女性はこの仕事しかできないだろうと決めつけて、社内専門職と一般事務職としてしか処遇しない企業もありました。そうした企業でも、最近の女性登用の流れの中で、少し女性の持ち場を広げようとしています。

ぜひ女性たちはこのトレンドを活用して自分の守備範囲を広げてほしいものです。声がかかったら異動は自分を成長させる得難い機会だと積極的に受けましょう。今まで女性を人事異動する習慣がないのでどう展開したらいいかわからず、声をかけても異動を断られるのではないかと心配する企業も少なくありません。前向きに引き受ければあなたへの視線も変わるかもしれません。

単なる異動の場合でなくて昇進の場合も同様です。将来新しいチャレンジを恐れないためにも若いうちにいくつも異動を経験しておくと新しい仕事に取り組むのを恐れなくなります。何度か異動するうちに新しい仕事をするコツが身につき、カンが養われます。そして新しいポストでうまくいくこともあればいかないこともある。自分はこうした仕事は向いているがああした仕事は苦手だ、と自分について「等身大の自信」を持てるようになります。

企業の側にもお願いがあります。異動や昇進に不慣れな女性たちの不安に対応するために、女性への期待をぼんやりとした期待でなく、明確なジョブディスクリプションで示すとか、将来のキャリアパスのモデルを示していただきたいのです。

具体的な激変緩和策としては、社内インターンを経験させるとか、もう一度元のコースに戻ることができる選択肢を残すとか、新しい人事体系を工夫し、女性人材を育成してほしいものです。手間はかかるかもしれませんが、きっと会社にとって将来大きな戦力になるはずです。

坂東 眞理子 昭和女子大学総長

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ばんどう まりこ / Mariko Bando

1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に330万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。

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