「時代劇」は衰退するだけのコンテンツなのか サスペンスで新味打ち出す「闇の歯車」の挑戦

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その言葉どおり、宣伝展開も従来の高齢者向けの展開ではなく、スタイリッシュな側面をアピール。モノトーンを基調としたノワール風のポスター・チラシビジュアル、そして活劇を強調したスピーディーな予告編など、時代劇というよりは洋画の活劇といった宣伝展開を行っている。

洋画のようなポスタービジュアルで、シニア層以外にも作品を訴求 ©2019「闇の歯車」製作委員会

本作は東映の協力のもと、時代劇を熟知した京都の職人スタッフが参加している。テレビ放送用で制作された作品でありながら、巨大スクリーンでも上映が十分可能なクオリティーであることも、劇場公開の決め手となった。

クオリティーという点では、作り手の後継者育成という課題にも向き合っている。

日本映画放送の社長は、ドラマ「北の国から」などで知られる杉田成道氏。杉田氏が監督を務めた映画『最後の忠臣蔵』(2010年公開)は、製作協力として松竹京都撮影所が参加していたが、この時のスタッフが平均年齢60歳を超えている現状に、「時代劇を作り続けないと、若い人が入らずスタッフが高齢化していくだけになる。技術を途絶えさせないためにも、リスクはあるが、オリジナルを作り続けないといけない」と危機感を抱いたという。

365日24時間時代劇放送を掲げる「時代劇専門チャンネル」にとっても新作が作られないのは死活問題。テレビで過去に数多くの時代劇が放映されたといっても、その遺産には限りがある。ドラマ史上最長の話数を誇り、ギネスにも認定された「銭形平次」でさえ全888話だが、1日1話放送すれば、2年半で終わってしまう。

技術継承のためにも新作の継続が必要

そうしたことから、「時代劇専門チャンネル」では、オリジナル新作の製作に力を入れてきた。人気小説「鬼平犯科帳」の盗賊たちを描いた「鬼平外伝」シリーズを筆頭に、藤沢周平原作・仲代達矢主演の「果し合い」など、池波正太郎、藤沢周平といった時代小説の名手たちの作品を映像化し、高い評価を受けてきている。今回の「闇の歯車」もその延長線上にあるといえる。安定的に作品が作られるようになったことで、撮影所には活気が戻りつつあるという。さらに20代の新しいスタッフも入ってきており、後継者の育成も進んでいるという。

「時代劇というとシニアのためのもの」からの脱却を目指す動きも出ている。映画界では、2017年には岡田准一主演の『関ヶ原』、大野智主演の『忍びの国』、そして小栗旬主演の『銀魂』といった従来の時代劇の枠にははまらないような作品も含め、多様なジャンルの作品がヒットし、多くの若い観客が劇場に足を運ぶようになった。2019年も松坂桃李主演の『居眠り磐音』、星野源主演の『引っ越し大名!』といった作品の公開も予定されている。

また、「戦国BASARA」「刀剣乱舞」といったゲーム、アニメなどをきっかけに歴史に興味を持つ女性が増えるなど、若年層にも時代劇を見直す土壌が生まれてきている。

時代劇の灯を絶やさないための試みが実を結ぶのは、そう遠い話ではないかもしれない。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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