吉田沙保里の引退会見に見た超自然体の凄み

名言はなくてもその受け答えが深く刺さった

「『これからどうしていくんだろう』という思いも強かったですし、後輩たちがそれに悩まされて思い切り練習できなかったり、試合で結果が残せなかったりというところがいちばんつらかったですね。でも次に向かって頑張っていくしかないので、前を見て東京オリンピックに向けてひとつになって頑張っていこうと思っています」

ここでも吉田さんの「自分のやれることに集中する」という姿勢にブレはありませんでした。これは裏を返せば、「私ではどうにもできないことがいちばんつらい」という本音がコメントに表れていたということ。吉田さんはレスリング関係者だけでなく、プライベートや芸能活動のときも、周囲の人々に分け隔てなく接して自ら話しかけるタイプだけに、それができない歯がゆさを感じていたことは想像にかたくありません。

ネット上には、いまだ「パワハラ問題にダンマリ」などと吉田さんに不満をぶつける人も少なくありませんが、もし国を代表する偉大なアスリートに無理やり発言させるようなムードを作ったら、日本は世界の人々から笑われてしまうでしょう。少なくとも、この日の会見を見た人は、その必然性がないことを感じたはずです。

「未練」「悔い」を感じさせない受け答えとは

そのほかにも吉田さんは、「キャスターも含めて今後チャレンジしたいものは?」「後継者には誰を指名?」「4度も出たオリンピックはどういうものだった?」などの質問に、まるでスパーリングをするようにテンポよく答えていきました。

なかには、「政治に関心は? もし出馬要請が来たら?」「日本のLGBTをどう思う?」「結婚の予定は?」「吉田さんの追っかけをしている江頭2:50さんを意識している?」などの珍質問もありましたが、吉田さんは余裕の切り返し。

「(政治に関心は)まったくございません」「(LGBTは)あまりよくわからない」「(結婚の予定は)ないです」「『あっ、また江頭さん会場に応援に来てくれていたんだ』と知ってうれしく思いました。感謝しています」と笑顔を交えつつ、きっぱりと答えました。

大小メディアを問わず、さまざまな記者からの質問に区別をつけず、決して「ごまかしておしまい」にしなかったのは、まさに大物の風格。質問を仕掛けた記者たちがタジタジになる様子に痛快さを感じたくらいです。

吉田さんの会見には、いわゆる歴史に残るような名言はありませんでした。それは前述したように、彼女があらかじめ想定問答集のようなものを用意せず、しかも熟慮せずにテンポよく言葉を返していたから。吉田さんがアスリートにとっては大きな節目である引退という場で、自然体の受け答えができたのは、最大の武器であった高速タックルと同じように、瞬発力と度胸あってのことでしょう。

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